人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「曽我物語」母の勘当蒙る事(その2)

をとこになりたる」と言ふを、「法師ほふしになりたる」と聞き紛ひ、いつもの所に出で、「これへ」とのたまへども、身のとがに依り、五朗ごらう左右さうなく内へも入らざりけり。母待ち兼ねて、急ぎ見んとて、障子しやうじを開けければ、をとこに成りてぞたりける。母思ひの外にて、二目とも見ず、障子を引き立て、「これは夢かや、うつつかや、心憂や、今より後、子とも母とも思ふべからず。仮初めにも見えず、音にも聞かざらん方へ惑ひ行け。何の勇ましさに、男にはなりたるぞや。十郎じふらうが有様を、羨ましく思ふか。一匹持ちたる馬をだにも、けならかに飼はず、一人具したる下人にだにも、四季折節をりふし扶持ふちをもせず、明け暮れ見苦しげにて、目も当てられず。世にある人々の子どもを見る時は、たれかは劣るべきと思ふにも、涙の隙はなきぞとよ。思ひ知らずして、物に狂ふか、恨めしや。




母は「男になっております」と言うのを、「法師になられました」と聞き違い、いつもの所に出て、「ここへ」と申しましたが、身の咎により、五朗(曽我時致ときむね)は、中に入るのを躊躇しました。母は待ちかねて、急ぎ見ようと、障子を開ければ、男の姿になっていました。母は思いもしなかったことでしたので、二目とも見ず、障子を引き立て、「これは夢でしょうか、それとも本当のこと、情けないこと、今後、子とも母とも思いません。わずかも見えず、音にも聞かないところへ行きなさい。とんでもないことをしたものです、どうして男になどなったのです。十郎(曽我祐成すけなり)を、羨ましく思ったのですか。ただ一匹持つ馬でさえ、満足に飼えず、一人連れた下人にも、四季折節に扶持([給与])も与えられず、明け暮れみすぼらしくて、目も当てられないほどです。世にある人々の子どもを見ては、誰に劣るとも思いませんが、涙の乾く隙はないほどです。母の思いも知らずして、物に狂いましたか、ああ情けない。


続く


by santalab | 2015-06-13 10:24 | 曽我物語

<< 「曽我物語」母の勘当蒙る事(その3)      「曽我物語」母の勘当蒙る事(その1) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧