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「曽我物語」筥王、祐経にあひし事(その4)

筥王はこわうは、父が昔をつくづくと聞きて、今更なる心地して、忍びの涙に咽びけり。ややありて、我、このあひだ祈りし願ひの、叶ふにこそあるべし。窺ひ寄りて、便宜びんぎよくは、一刀差し、如何にもならんと思ひ定めて、「御坊ごばうは、これにましませ。法師ほふしこそ寄らね、童部わらんべは近く寄りても、苦しからず。山寺に住めばとて、人を見知らぬは無下なり。近く寄りて、見知らん」とて、赤地あかぢ柄鞘つかさや巻きたる守り刀を、脇に差し隠し、大衆だいしゆの中を抜け出でて、祐経すけつねが後ろ近くぞ、狙ひ寄りける。




筥王は、父(河津祐泰すけやす)の昔を余さず聞いて、まるで今のような気がして、忍びの涙に咽びました。しばらくして、わたしが、この間祈った願いが、叶ったのであろう。隙を窺い近付いて、折よき機会あらば、一刀差し、如何にもなろうと覚悟を決めて、「御坊は、ここにおられよ。法師は近寄ることができなくとも、童部なら近く寄っても、差し障りなし。山寺に住むからといって、人を見知らぬのは残念なこと。近く寄って、顔見知りになりましょう」と申して、赤地の錦で、柄鞘を巻いた守り刀を、脇に差し隠し、大衆([僧])の中を抜け出でて、祐経の後ろ近くに、狙い寄りました。


続く


by santalab | 2015-06-14 18:40 | 曽我物語

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