まことや、「天人の婬せざるところは、禍ひありて、しかも禍なし」と、東方朔が言葉、思ひ知られて、しかるべき善知識を尋ね、生年十六歳と申すに出家して、諸国を修行して、後には、大磯の虎が住みかを尋ね、道心に行して、いづれも八十余にして、往生の素懐を遂げにけり。あり難かりし心ざしとぞ聞きし。
まこと、「天人が婬せざるは、禍の元となるが、災いではない」との、東方朔(前漢の文学者)の言葉が、思い知られて、しかるべき善知識([仏教の正しい道理を教え、利益を与えて導いてくれる人])を尋ね、生年十六歳と申すに出家して、諸国を修行し、後には、大磯の虎御前の住みかを訪ね、道心に任せ行して、いずれも八十余にして、往生の素懐を遂げました。ありがたい心ざしだと聞いています。
(続く)