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「曽我物語」祐経、館を変へし事(その3)

しかれども、御やかたの東のはづれは、
秩父の館なりけり。折節をりふし、本田の次郎じらう、小具足差し固め、夜まはりの番なりしが、庭上ていしやうに、「今宵こよひも余しけるよ」と、小声こごゑに言ふ音しけり。いかさま、伊豆いづ・駿河の盗賊の奴ばらにてあるらん、討ち止め、高名かうみやうせんと思ひ、太刀の鍔元つばもと、二三寸すかし、足早に歩み寄りけるが、心を変へて思ふやう一定いちぢやう、曽我の殿ばらの、日来の本意遂げんとて、夜昼付け廻りつる、然様さやうの人にてもやと、障子しやうじすきより、忍びて見れば、案にもたがはず、兄弟きやうだいは、敵の変へたる館を知らで、あきれてこそはたりけれ。




けれども、館の東の外れは、秩父(秩父重忠しげただ=畠山重忠)の館でした。ちょうど、本田次郎(本田親経ちかつね)が、小具足([鎧下の装束に付属品だけを着用して、鎧をつけない姿])に身を固め、夜回りの番をしていましたが、庭上に、「今宵も討てなかったな」と、小声で言う声が聞こえました。もしや、伊豆・駿河の盗賊の奴らではないか、討ち止め、高名を上げようと思い、太刀の鍔元を、二三寸抜いて、足早に歩み寄りましたが、ふと思うには、確か、曽我の殿どもが、日来の本意を遂げようと、夜昼付け回しておった、もしやその者ではないかと、障子の隙より、そっと見れば、思った通り、兄弟(曽我祐成すけなり時致ときむね)が、敵(工藤祐経すけつね)が館を変えたのを知らずに、呆然としていました。


続く


by santalab | 2015-07-04 08:37 | 曽我物語

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