五朗は、木戸を立てられて、大きに怒つて言ひけるは、「苦しからねば、通るなり。苦しき者の振る舞ひを見よ。これこそ、然る所へ強盗に入る者よ。止めんと思はん奴ばらは、組み止めよ。手には掛けまじきものを」と言ひければ、番の者ども、これを聞き、「夜番の兵士は、何の用ぞや、斯様の狼藉鎮めん為なり。討ち止めよ」と追ひ掛けたり。五朗も、「心得たりや、事々し。掛かりて見よ」と言ふままに、太刀取り直し、待ち掛けたり。
五朗(曽我時致)は、木戸を閉められて、たいそう怒って申すには、「怪しい者でないと申しておるではないか、ここを通るぞ。これが怪しい者の振る舞いというものよ。我らこそ、ある所に強盗に入る者ぞ。止めんと思う奴どもは、我らと組んで止めてみよ。どうせ手も出せない腰抜けどもであろう」と申せば、番の者どもは、これを聞き、「夜番の兵士が、何のためにおると思うておる、お前たちのような狼藉者を成敗するためぞ。やれ討ち止めよ」と追い掛けました。五朗(時致)も、「お前たちに捕まるものか、誰と思うておる。さあ掛かって来い」と言うままに、太刀を取り直し、待ち構えました。
(続く)