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「曽我物語」弁才天の御事(その15)

祐成すけなりがあり所近ければ、義盛よしもりが言葉、手に取るやうにぞ聞こえける。「不思議やな。思はぬ最後の出で来たるぞや。身に思ひのあれば、千金万玉せんきんばんぎよくよりもしき命なり。されども、逃れぬところは、力なし。いたづらなる死にして、五朗ごらうに恨みられん事こそ、思ひ遣られて悲しけれ。さりながら、斯様かやうのところは、神も仏も許し給へ」とくわんじて、烏帽子押しなほし、直垂ひたたれの露結びて、肩に掛け、伊東重代の赤銅しやくどう作りの太刀を二三寸抜き掛け、片膝押し立て、一方いつぱうの戸を開き、「事々ことことし、三浦の者ども、何十人なんじふにんもあれ、一番にらん朝比奈あさいなが諸膝薙ぎ伏せ、続かん奴ばら、物の数にやあるべき、伊東の手並み見せん。遅し」とこそは待ち掛けたり。




祐成(曽我祐成)は近くにいたので、義盛(和田義盛)の言葉が、手に取るように聞こえました。「不思議なことよ。思いもしない最後となるやも知れぬ。身に願いあらば、千金万玉よりも惜しい命だが。けれども、逃れられぬところならば、仕方ない。無駄に死んで、五朗(曽我時致ときむね)に恨まれることだろうと、思い遣られて悲しく思いました。けれども、仕方のないことならば、神も仏も許し給え」と念じて、烏帽子を押し直し、直垂([衣])の露([狩衣・水干などの袖くくりの紐の垂れた端])を結び、肩に掛け、伊東重代の赤銅作りの太刀を二三寸抜いて、片膝押し立て、一方の戸を開き、「やかましい奴め、三浦の者どもが、何十人いようが、一番に入る朝比奈(朝比奈義秀よしひで)の諸膝([両膝])を薙ぎ伏せば、続く奴どもは、物の数ではなかろう、伊東の手並み見せてくれよう。遅いぞ」と待ち掛けました。


続く


by santalab | 2015-07-19 10:34 | 曽我物語

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