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Santa Lab's Blog


「曽我物語」館回りの事(その2)

これは如何に、一木瓜ひとつもつかうの幕をこそ打つべきに、心得ぬものかな、まことや、人々にあらず、知るを以つて人とし、家々いへいへにあらず、いづくを以つてか家とす、継ぐべきをば継がで、すずろなる曽我のなにがしと呼ばれぬるうへは、いへの紋入るべからず、祐経すけつねは、まこととやらん、我々が先祖の知行ちぎやうせし所領しよりやうを知るに依りて、斯様かやうに成り行くものをや、あはれ昔、斯様にはなかりしものをと、見入れてとほりけるに、祐経が嫡子犬房いぬばう見付けて、「只今、この前を十郎じふらう殿通りさうらふ」。左衛門さゑもん聞きて、「玉井たまのいの十郎か、横山の十郎か」と問ふ。「曽我の十郎殿」と言ふ。「これは、祐経がやかたにて候ふ。立ち寄り給へ」と言はせければ、祐成、少しも憚らず、館の内へ入り見れば、手越てごし少将せうしやうは、左衛門のじようが君と見えたり。黄瀬川きせがはの亀鶴は、備前の国吉備津宮きびつみや王藤内わうとうないが君と見えたり。




これはどういうことか、一つ木瓜の幕をこそ打つべき(工藤氏の家紋は、庵に一つ木瓜)に、思いもしないことよ、まこと、人々にあらず、知るをもって人とし、家々にあらず、何をもってか家とする、継ぐべき者は家を継がず、思いがけなくも曽我の某と呼ばれる上は、家紋を打つこともない、祐経は、きっと、我々の先祖が知行した所領を所有するにより、このようなまねをするのか、ああ父(河津祐泰すけやす)が生きておれば、このようなことはなかったものをと、覗き見しながら通るのを、祐経(工藤祐経)の嫡子犬房が見付けて、「たった今、この前を十郎殿が通りました」。左衛門(祐経)はこれを聞いて、「玉井の十郎か、横山の十郎か」と訊ねました。犬房は「曽我の十郎殿(曽我祐成すけなり)です」と答えました。「ここは、祐経の館です。立ち寄られよ」と言いに遣らせれば、祐成は、少しも遠慮せず、館の内へ入り見れば、手越少将は、左衛門尉の君(妾)に見えました。黄瀬川の亀鶴は、備前国吉備津宮の王藤内(王藤内隆盛たかもり)の君に見えました。


続く


by santalab | 2015-07-28 08:41 | 曽我物語

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