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「曽我物語」三原野の御狩の事(その3)

れども、曽我兄弟きやうだいの人々は、君の御前をも知らず、野干に心をも入れず、その人ばかりをぞたづねける。雑人ざふにんに交はり、馬にも乗らざれば、一日に一度、余所ながら見る日もあり、ただ空しくのみぞ、日を送りける。さても、御狩みかりの人々は、日の暮るるをも、時の移るをも知らずして、狩りけるに、午の刻ばかりに、狐鳴きて、北を指して飛び去りけり。人々これを留めむとて、矢筈やはづを取りて追つ掛けたり。君御覧ぜられ、彼らを召しかへし、「秋野の狐とこそいへ、夏の野に狐鳴く事、不思議なり。たれさうらふ、歌詠み候へ」とおほせ下されければ、祐経すけつねうけたまはりて、「まことに源太げんだが歌には、鳴る神愛でて、雨晴れ候ひぬ。これにも歌あらば、苦しかるまじ。誰々たれたれも」とまうされければ、大名だいみやう小名せうみやう、我も我もと案じ、詠じけれども、詠む人なかりけり。




けれども、曽我兄弟の人々(曽我祐成すけなり時致ときむね祐経すけつね)ばかりを探しました。雑人に交わり、馬にも乗りませんでしたので、一日に一度、遠くから見る日もありましたが、ただ空しく、日を送りました。さて、御狩の人々は、日の暮れるのも、時の移るのも知らず、狩りをしていましたが、午の刻([午前十二時頃])ばかりに、狐が鳴いて、北を指して飛び去りました。人々はこれを仕留めようと、矢を取って追いかけました。君(頼朝)はこれを見て、彼らを呼び返し、「秋野の狐ととは申せ、夏の野に狐が鳴くとは、不思議なことよ。誰かおらぬか、歌を詠まれよ」と命じると、祐経(工藤祐経)が承って、「まこと源太(梶原景季かげすゑ)の歌には、鳴る神([雷])も愛でて、雨は晴れました。これにも歌を詠めば、不思議もあろうというもの。さあ誰でもよい」と申すと、大名・小名、我も我もと案じ、詠もうとしましたが、結局詠む人はいませんでした。


続く


by santalab | 2015-08-07 11:13 | 曽我物語

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