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「曽我物語」三浦の与一を頼みし事(その10)

ややありて、「や、殿、与一殿、弓矢を取るも、取らざるも、をとこと首を刻まるるほどの者が、いざや、死にに行かんと打ち頼まんに、辞退するほどのやからをば、人とは言はで、犬野干やかんとこそまうせ。就中なかんづく、弓矢のほふには、命をば塵芥ちんがいよりもかろくして、名をば千鈞せんきんよりも重くせよとこそ言ふに、さぶらひの命は、今日けふあれば、明日までも頼むべきか。聞くべしとてこそ、かほどの大事を言ひ聞かせつらめ。しかも、親しき仲ぞかし。当たる道理だうりを言ひ聞かせて言はば、領状りやうじやうして、叶はじと思はば、後に辞退するまでぞ。左右さうなく鼻を突き、剰へ、上へまうさんとな。それほどの大事、心に懸くるうへは、穏便の者にてこそ、当座たうざも、和殿が命をば助け置け。上様へ申し上ぐると聞きては、一遣りも遣らじ。命しくは、止まり給へ。命ありてこそ、きやうへも、鎌倉へも申し給はめ。




ややあって、「落ち着け、殿、与一殿、弓矢を取るも、取らぬも、男として首を刻まれるほどの者が、いざや、死にに行こうと頼むのだ、辞退するほどの族を、人とは言わず、犬野干([狐])とでも申すもの。まして、弓矢の掟には、命を塵芥([ごみ])よりも軽くして、名を千鈞(一鈞=6800g、千鈞=6.8t)よりも重くせよと申す、侍の命は、今日あればとて、明日までも頼むべきものでない。話を聞くと思い、これほどの大事を聞かせたのだろう。しかも、親しい仲ではないか。ぞかし。道理を言い聞かせたならば、領状([承知すること])したであろうし、そうでない時は、後に辞退すればよいことよ。有無も言わせず拒み、その上、上へ申すというか。それほどの大事を、思い定めておるのじゃ、穏便に済まそうと思い、その場も、そなたの命を助けたのであろう。上様へ申し上げると聞いては、一歩なりとも遣らせまい。命が惜しくば、止まられよ。命あってこそ、京へも、鎌倉へも申すことができるのだぞ。


続く


by santalab | 2015-08-28 07:51 | 曽我物語

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