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「曽我物語」曽我にて虎が名残り惜しみし事(その10)

十郎じふらうも、詮方無くして、「余りな歎き給ひそ。人々聞きさうらふべし。名残りはたれも同じ心ぞ」と慰めつつ、「これを形見に」とて、「祐成すけなりに添ふと思し召せ」とて、びんの髪を切りて取らせぬ。虎は、涙諸共に受け取り、膚の守に深く納め、物をも言はで伏ししづみぬ。十郎も、同じ枕に打ちかたぶき、涙に咽ぶ計りなり。日も既に暮れければ、今宵こよひばかりの名残りぞと、思ひ遣るこそ悲しけれ。千代を一夜に重ねても、明けざれかしと思はるる。




十郎(曽我祐成すけなり)も、どうしてよいか思案に暮れて、「そんなに悲しまないでおくれ。人々が聞いておろう。名残りはわたしも同じこと」と慰めつつ、「これを形見に」と申して、「この祐成がそばにいると思え」と申して、鬢([耳ぎわの髪])の髪を切って取らせました。虎御前は、涙とともにこれを受け取ると、膚の守に深く納め、何も言わずに伏しました。十郎(祐成)も、同じ枕に寄り添って、涙に咽びました。日もすでに暮れて、今宵ばかりの名残りと、思えば悲しみは尽きませんでした。千代をこの一夜に重ねても、夜が明けないでほしいと願うばかりでした。


続く


by santalab | 2015-09-11 08:36 | 曽我物語

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