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「太平記」頼員の事(その2)

女つくづくと聞いて、「怪しや何事のはんべるぞや。明日までの契りの程も知らぬ世に、後世までのあらましは、忘れんとての情けにてこそ侍らめ。さらでは、かかるべしとも思えず」と、泣き恨みて問ひければ、をとこは心浅うして、「さればよ、我不慮の勅命をかうむつて、君にたのまれ奉る間、辞するに道なくして、御謀反にくみしぬる千に一つも命の生きんずる事難し。無端存ずる程に、近付く別れの悲しさに、兼ねて加様かやうまうすなり。この事あなかしこ人に知らさせ給ふな」と、よくよく口をぞ堅めける。かの女性によしやう心の賢き者なりければ、つとにきて、つくづくとこの事を思ふに、君の御謀反事ならずば、たのみたるをとこたちまちに誅せらるべし。もしまた武家亡びなば、我が親類誰かは一人も残るべき。さらばこれを父利行としゆきに語つて、左近蔵人さこんくらうど回忠かへりちゆうの者に成し、これをも助け、親類をもたすけばやと思うて、急ぎ父が許に行き、忍びやかにこの事をありのままにぞ語りける。




女はつくづくと話を聞いて、「怪しいこと何事かありましたか。明日までの契りのほども知らぬ世に、後世までのあらまし([前もって先のことをあれこれ考えること])は、忘れようとして情けをかけているのですか。ほかに、理由があるとは思いません」と、泣き恨んで訊ねました、男は思慮浅くして、「それというのも、我は不慮の勅命を蒙り、君(第九十六代後醍醐天皇)に頼まれて、辞退もできず、謀反に与することになったからよ、千に一つも命を永らえることはなかろう。それを思えば、近付く別れの悲しさに、申し置くのだ。この事は決して人に知らせるでないぞ」と、よくよく口を固めました。この女性は知恵ある者でしたので、朝早く起きて、つくづくとこれを思うに、君の謀反がうまくいかなければ男はたちまち誅せらるでしょう。もしまた謀反により武家が亡べば、我が親類は一人も生き残ることはありません。ならばこれを父利行(斎藤利行)に話して、左近蔵人(土岐頼員よりかず)を返り忠([いったん背いた者が、再び忠義を尽くすこと])の者にして、これも助け、親類も助けようと思い、急ぎ父の許に行き、人目を忍んでこの事をありのままに話しました。


続く


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by santalab | 2015-11-16 21:37 | 太平記 | Comments(0)

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