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「太平記」頼員の事(その8)

これを始めとして、よろひの袖・草摺くさずり・兜の鉢とも不言、指し詰めて思ふ様に射けるに、おもてに立つたるつはもの二十四人、矢の下に射て落とす。今一筋ひとすぢえびらに残りたる矢を抜いて、箙をば櫓の下へからりと投げ落とし、「この矢一つをば冥途の旅の用心に持つべし」と云つて腰に差し、「日本一につぽんいちがうの者、謀反にくみし自害する有様見置いて人に語れ」と高声かうじやうに呼ばはつて、太刀のきつさきを口にくはへて、櫓よりさかさまに飛び落ちて、貫かれてこそ死にけれ。このあひだに多治見を始めとして、一族若党二十余人物の具ひしひしと堅め、大庭おほにはをどり出で、門のくわんの木差して待ち懸けたり。寄つ手雲霞の如しと云へども、思ひ切つたる者どもが、死に狂ひをせんと引つ篭もつたるがこはさに、内へ切つて入らんとする者もなかりける処に、伊藤彦次郎ひこじらう父子兄弟きやうだい四人よつたり、門の扉の少し破れたる処より、這うて内へぞ入りたりける。心ざしの程はたけけれども、待ち請けたる敵の中へ、這うて入つたる事なれば、敵に打ち違ふるまでもなくて、皆門の脇にて討たれにけり。




これをはじめ、鎧の袖・草摺([甲冑の胴の裾に垂れ、下半身を防御する部分])・兜の鉢ともうわず、差し詰め思うままに矢を射て、正面から向かう兵二十四人を、射て馬から落としました。残る一本箙([矢を入れて右腰に付ける武具])に残った矢を抜いて、箙を櫓の下へからりと投げ落とし、「この矢一つを冥途の旅の用心に持とう」と言って腰に差し、「日本一の剛の者が、謀反に与して自害する有様を見置いて人に語れ」と大声で叫ぶと、太刀の切っ先を口に咥えて、櫓よりさかさまに飛び落ちて、太刀に貫かれて死にました。この間に多治見(多治見国長くになが)をはじめとして、一族若党二十余人物の具ひしひしと堅め、大庭に躍り出て、門のかんぬき([門や出入口などの扉を閉じて内側から固めるための横木。貫木または関木])関木を差して待ち懸けました。寄っ手は雲霞の如く大勢でしたが、思い切った者どもが、死に狂いせんと引き籠もっていたので、内へ切って入ろうとする者はいませんでしたが、伊藤彦次郎父子兄弟四人が、門の扉の少し破れたちころより、這って内に入りました。その心ざしこそ勇ましいものでしたが、待ち請けた敵の中へ、這って入ったので、敵に打ち合うことさえなく、皆門の脇で討たれました。


続く


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by santalab | 2015-11-20 18:50 | 太平記 | Comments(0)

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