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「太平記」新田義貞謀反の事付天狗催越後勢事(その6)

義貞よしさだ義助よしすけ不斜悦びて、「これ偏へに八幡大菩薩>の擁護によるものなり。且くも不可逗留とうりう」とて、同じき九日武蔵の国へ打ち越え給ふに、紀の五左衛門、足利殿の御子息千寿王せんじゆわう殿を奉具足、二百余騎にて馳せ着きたり。これより上野かうづけ下野しもつけ上総かづさ・常陸・武蔵のつはものども不期に集り、不催に馳せ来つて、その日の暮れほどに、二十万七千にじふまんしちせん余騎兜を並べ控へたり。去れば四方しはう八百里に余れる武蔵野に、人馬ともに満ち満ちて、身をそばだつるに処なく、打ち囲うだる勢なれば、天に飛ぶ鳥も翔ける事を不得、地を走るけだものも隠れんとするに処なし。草の原より出づる月は、馬鞍むまくらの上にほのめきてよろひの袖に傾かたぶけり。尾花が末を分くる風は、旗の影をひらめかし、母衣ほろの手しづまる事ぞなき。




義貞(新田義貞)・義助(脇屋義助。新田義貞の弟)はたいそうよろこんで、「これはひとえに八幡大菩薩>の擁護によるものぞ。しばらくも逗留すべきでない」と申して、同じ五月九日に武蔵国へ打ち越えるところに、紀五左衛門が、足利殿(足利高氏)の子息千寿王殿(後の足利義詮よしあきら)を具足して、二百余騎で馳せ付きました。これより上野・下野・上総・常陸・武蔵の兵どもが自ずと集まり、馳せ来て、その日の暮れほどに、二十万七千余騎が兜を並べました。こうして四方八百里に余る武蔵野に、人馬ともに満ち満ちて、身を立てるに所なく、打ち囲むほどの勢となって、天を飛ぶ鳥も翔けることを得ず、地を走る獣も隠れる場所がないほどでした。草の原より出づる月は、馬鞍の上に反射して鎧の袖に映りました。尾花([薄])の末を分ける風は、旗の影をひらめかし、母衣([戦場における甲冑着用の際に、縦に縫い合わせた長い布を背中につけたもの])を切る音が静まることはありませんでした。


続く


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by santalab | 2015-11-21 08:58 | 太平記 | Comments(0)

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