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「太平記」新田義貞謀反の事付天狗催越後勢事(その7)

懸かりしかば国々の早馬はやむま、鎌倉へ打ち重なつて、急を告ぐる事櫛の歯を挽くが如し。これを聞いて時の変化をも計らぬ者は、「あな事々し、何程の事か可有。唐土たうど天竺てんぢくより寄せ来たると云はば、げにもまことしかるべし。我がてう秋津嶋の内より出でて、鎌倉殿を亡ぼさんとせん事蟷螂たうらう遮車、精衛せいゑい填海とするに不異」と欺き合へり。物の心をもわきまへたる人は、「すはや大事出で来ぬるは。西国・畿内の合戦未だしずまらざるに大敵また藩籬はんりうちより起これり。これ伍子胥ごししよ呉王ごわう夫差ふさを諌めしに、しん瘡痏さうゐにしてゑつは腹心の病ひなりと云ひしに不異」と恐れ合へり。




こうして国々の早馬が、鎌倉へ打ち重なって、急を告げること櫛の歯を挽く([櫛の歯は、一つ一つのこぎりでひいて作ったところから、物事が絶え間なく続く])ように馳せ参りました。これを聞いても時の変化に気付かない者は、「大げさなことよ、何ほどのことがあろうや。唐土([中国])・天竺([インド])から敵が攻め来るというならば、騒ぎにもなろう。鎌倉殿(北条守時もりとき。鎌倉幕府第十六代執権)を亡ぼそうとする蟷螂の遮車([蟷螂の斧]=[蟷螂が斧を以て隆車に向かう]=[弱者が無謀にも強敵に立ち向かうたとえ])、精衛填海(中国の民話の一。炎帝=神農。に女娃という娘がいたが、東海に落ちて溺れ死んでしまった。死んだ女娃の魂は、小鳥=精衛となって、小石や小枝をせっせと嘴にくわえては海に落とし、自分を殺した海を埋め立てようとしたという)に異ならず」と哀れみがりました。物の心を弁えた人は、「大事となるであろう。西国・畿内の合戦さえまだ静まらぬのに大敵また藩籬(関東)の内で起こるとは。これ伍子胥([春秋時代・呉の政治家、軍人である])が呉王夫差([呉の第七代にして、最後の王])を諌めて、晋を放っておけば瘡痏([かさぶた傷])になるかもしれませんが、越は腹心の病い([身体の重要な部分の重い病気。深刻な悩み])ともなりましょうと申したのに異ならず」と恐れ合いました。


続く


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by santalab | 2015-11-21 09:03 | 太平記 | Comments(0)

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