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「太平記」新田義貞謀反の事付天狗催越後勢事(その10)

夜既に明けぬれば、源氏は平家に先をせられじと、馬の足を進めて久米河の陣へ押し寄する。平家も夜明けば、源氏定めて寄せんずらん、待つて戦はば利あるべしとて、馬の腹帯はるびを固め兜の緒をめ、相待あひまつとぞ見へし。両陣たがひに寄せ合はせて、六万余騎の兵を一手に合はせて、やうに開いて中に取り篭めんと勇みけり。義貞よしさだの兵これを見て、陰に閉ぢて中を破られじとす。これぞこの黄石公くわうせきこうが虎をばくする手、張子房ちやうしばうが鬼をとりひしぐ術、何れも皆存知の道なれば、両陣共に入り乱れて、不被破不被囲して、ただ百戦の命を限りにし、一挙に死をぞ争ひける。されば千騎せんぎが一騎に成るまでも、互ひに引かじと戦ひけれども、時の運にやよりけん、源氏はわづかに討たれて平家は多く亡びにければ、加治かぢ・長崎二度の合戦に打ち負けたる心地して、分陪ぶんばいを差して引き退く。源氏なほ続いて寄せんとしけるが、連日数度すどの戦ひに、人馬数多あまた疲れたりしかば、一夜馬の足を休めて、久米河くめがはに陣を取り寄せて、明くる日をこそ待ちたりけれ。




夜が明けると、源氏(新田)は平家に先を越されまいと、馬の足を進めて久米川(現東京都東村山市)の陣へ押し寄せました。平家も夜が明ければ、源氏はきっと攻めてくるだろう、待って戦うべきと、馬の腹帯([鞍を馬の背に取りつけるために馬の腹に締める帯])を固め兜の緒を縮め、待つように見えました。両陣互いに寄せ合わせて、六万余騎の兵を一手に合わせて、陽に開いて中に取り込めようと勇んで懸かりました。義貞(新田義貞)の兵はこれを見て、陰に閉じて中を駆け破られまいとしました。これぞ黄石公([秦末の隠士])が虎を縛する手、張子房([張良。子房は字。秦末期から前漢初期の政治家・軍師。劉邦に仕えた])が鬼を押しつぶす術、いずれも皆知っていることでしたので、両陣ともに入り乱れて、破られず囲まれずして、ただ百戦の命を限りにし、一挙に死を争いました。なればたとえ千騎が一騎になろうとも、互いに引かず戦っていましたが、時の運によるものか、源氏(新田)はわずかに討たれて平家は多く亡びたので、加治(加治二郎左衛門)・長崎(長崎高重たかしげ)は二度の合戦に討ち負けたような気になって、分陪(現東京都府中市)を指して引き退きました。源氏はなおも攻めようとしましたが、連日数度の戦いで、人馬ともに疲れていたので、一夜馬の足を休めるために、久米川に陣を取って、明くる日を待ちました。


続く


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by santalab | 2015-11-21 09:43 | 太平記 | Comments(0)

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