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「太平記」南都北嶺行幸の事(その4)

称揚讚仏しようやうさんぶつみぎりには、鷲峯じゆほうの花にほひを譲り、歌唄頌徳かばいじゆとくの所には、魚山の嵐響きを添ふ。伶倫れいりん遏雲あつうんの曲を奏し、舞童ぶどう回雪くわいせつの袖をひるがへせば、百獣も卒し舞ひ、鳳鳥ほうてうも来儀するばかりなり。住吉の神主、津守の国夏くになつ大皷の役にて登山とうさんしたりけるが、宿坊しゆくばうの柱に一首の歌をぞ書き付けたる。

契りあれば この山もみつ 阿耨多羅あのくたら 三藐三菩提さんみやくさんぼだいの 種や植ゑけん

これは伝教大師でんげうたいし当山たうざん草創さうさういにしへ、「我が立つそま冥加みやうがあらせ給へ」と、三藐三菩提の仏たちに祈り給ひし故事を思うて、詠める歌なるべし。




称揚讚仏([仏を褒め称えること])の砌([場所])には、鷲峯(霊鷲山りようじゆせん。釈迦が法華経などを説いた地)の花の匂いが漂い、歌唄頌徳([徳を称え声楽すること])の所には、魚山([中国山東省東阿県の西にある山の名で、中国の古代声明の伝説的な中心地])の嵐が響きを添えました。伶倫([伶人]=[楽人])が遏雲([空行く雲を遏めるほど美しい歌曲])の曲を奏し、舞童が回雪([雪が舞うようにひらひらと袖を翻す舞])の袖を翻せば、百獣も連なり舞い、鳳鳥も来儀([鳳凰が飛来して、威厳のある姿を示すこと])するほどでした。住吉(現大阪市住吉区にある住吉大社)の神主、津守国夏が大皷の役として(比叡山に)登山しましたが、宿坊の柱に一首の歌を書き付けました。

契りあればこそ、この山には数多くの寺院が立ち並んでおります。阿耨多羅三藐三菩提([正覚]=[悟りの境地])の種を植えられたからでございましょう。

これは伝教大師(最澄)が当山を草創した昔、「わたしが立っているこの杣山=比叡山。に加護をお与えくださいますように」と、三藐三菩提の仏たちに祈った故事を思い、詠んだ歌なのです。


続く


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by santalab | 2015-11-21 21:17 | 太平記 | Comments(0)

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