Santa Lab's Blog


「太平記」主上御没落笠置事(その2)

とかうして夜昼三日に、山城の多賀たかこほりなる有王ありわう山の麓まで落ちさせ給ひてけり。藤房ふぢふさ季房すゑふさも、三日まで口中くぢゆうじきを断ちければ、足たゆみ身疲れて、今は如何なる目に逢ふとも逃げぬべき心地せざりければ、詮方なうて、幽谷いうこくの岩を枕にて、君臣兄弟きやうだいもろともに、うつつの夢に伏し給ふ。こずゑを払ふ松の風を、雨の降るかと聞こし召して、木の陰に立ち寄らせ給ひたれば、下露のはらはらと御袖に懸かりけるを、主上御覧じて、

さして行く 笠置かさぎの山を 出でしより あめが下には 隠れ家もなし

藤房のきやう涙を抑へて、
いかにせん 頼む陰とて立ち寄れば なほ袖ぬらす 松の下露




どうにかして夜昼三日かけて、山城の多賀の郡(現滋賀県犬上郡多賀町)にある有王山(現京都府綴喜つづき郡井手町の東部にある山)の麓まで落ちられました。藤房(万里小路藤房)も季房(万里小路季房)も、三日間何も食べていませんでしたので、足はふらつき身は疲れて、今はどんな目に遭おうとも逃れられるとも思いませんでした、どうにもならず、幽谷の岩を枕にして、君臣(第九十六代後醍醐天皇)兄弟(万里小路藤房・季房)もろともに、現の夢に伏しました。梢を払う松の風に、雨が降るかと聞かれて、木の陰に立ち寄れば、下露がはらはらと袖にかかるのを、主上は見られて、

赤坂城を指して行く我らには、笠置山を出でからというもの、天下に隠れ家もないとは。

藤房卿は涙を抑えて、
頼む陰と思って立ち寄った松の木さえも、下露が袖を濡らすとは。申す言葉もございません。


続く


[PR]
by santalab | 2015-11-22 08:48 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」主上御没落笠置事(その3)      「曽我物語」富士野の狩場への事... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧