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「太平記」先帝船上臨幸事(その3)

官女この由をまうし入れければ、主上なほもかれいつはりてや申すらんと思し召されける間、義綱よしつなが心ざしの程をよくよくうかがひ御覧ぜられん為に、かの官女を義綱にぞ被下ける。判官は面目身に余りて思えけるうへ、最愛また甚しかりければ、いよいよ忠烈の心ざしをあらはしける。「さらばなんぢ先づ出雲いづもの国へ越えて、同心すべき一族を語らひて御迎ひに参れ」と被仰下ける程に、義綱すなはち出雲へ渡つて塩冶えんや判官を語らふに、塩冶いかが思ひけん、義綱を籠めて置いて、隠岐の国へ不帰。主上しばらくは義綱を御待ちありけるが、余りに事とどこほりければ、ただ運に任せて御出であらんと思し召して、ある夜のよひの紛れに、三位さんみ殿の御局の御産ごさんの事近付きたりとて、御所を御出である由にて、主上その御輿に召され、六条ろくでうの少将忠顕ただあき朝臣計りを召し具して、潛かに御所をぞ御出でありける。




官女がこの由を申し入れると、主上(第九十六代後醍醐天皇)はなおも偽りを申しているやもと思われて、義綱(佐々木義綱)の心ざしのほどをよくよく窺い見るために、この官女を義綱に下されました。判官は面目が身に余ると思うのみならず、この官女を最愛したので、ますます忠烈の心ざしを強くしました。「ならばお主がまず出雲国へ越えて、同心すべき一族を味方に付けて迎えに参れ」と仰せを下されたので、義綱はたちまち出雲へ渡って塩冶判官(塩冶高貞たかさだ)を味方に付けようと思いましたが、塩冶(高貞)はどう思ったか、義綱を籠め置いて、隠岐国へは帰しませんでした。主上はしばらく義綱を待っていましたが、あまりにも帰りが遅いので、ただ運に任せて出て行こうと思われて、ある夜の宵の紛れに、三位殿の御局(阿野廉子れんし)の御産が近付いたと偽り、御所を出る体で、その輿に召され、六条少将忠顕朝臣(千種忠顕)ばかりを召し具して、ひそかに御所を出られました。


続く


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by santalab | 2015-11-22 10:28 | 太平記 | Comments(0)

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