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「太平記」先帝船上臨幸事(その8)

今はかうと心安く思えてあと浪路なみぢかへりみれば、また一里許り下がりて、追ひ手の舟百余艘よさう、御坐船を目に懸けて、鳥の飛ぶが如くに追つ懸けたり。船頭これを見て帆の下に櫓を立てて、万里を一時に渡らんと声を帆に挙げて推しけれども、時節をりふしたゆみ、しほ向かうて御舟更に不進。水手すゐしゆ梶取かんどりいかがせんと、あはて騒ぎける間、主上船底より御出であつて、はだ御護おんまぶりより、仏舎利を一粒いちりふ取り出ださせ給ひて、御畳紙たたうがみに乗せて、波の上にぞ浮けられける。竜神これに納受なふじゆやしたりけん、海上かいじやうにはかに風替はりて、御坐船をば東へ吹き送り、追ひ手の船をば西へ吹き戻す。さてこそ主上は虎口ここうの難の御遁れありて、御船は時の間に、伯耆はうきの国名和湊なわのみなとに着きにけり。




今は安心と思えて後ろの浪路を振り返ると、また一里ばかり後ろに、追っ手の舟が百余艘、御坐船を目に懸けて、まるで鳥が飛ぶように追いかけてきました。船頭はこれを見て帆の下に櫓を立てて、万里を一時に渡ろうと声を帆に挙げて押し進めましたが、ちょうど風は凪いで、潮の流れは逆でしたので舟は進みませんでした。水手・梶取はどうすればよいものかと、あわて騒ぎましたが、主上(第九十六代後醍醐天皇)が船底より出られて、膚の守りより、仏舎利を一粒取り出されると、畳紙に乗せて、波の上に浮かべました。竜神はこれに納受したのか、海上の風向きが急に変わって、御坐船を東へ吹き送り、追っ手の船を西へ吹き戻しました。そうして主上は虎口の難を遁れられて、舟は時の間に、伯耆国名和湊(現鳥取県西伯郡大山町)に着きました。


続く


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by santalab | 2015-11-22 10:51 | 太平記 | Comments(0)

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