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「太平記」無礼講の事付玄恵文談の事(その4)

昌黎重ねていはく、「汝が所言我未だ信ぜず、今すなは造化ざうくわたくみを奪ふ事を得てんや」と問ふに、韓湘答ふる事なくして、まへに置いたる瑠璃るりの盆を打ちうつぶせて、やがてまた引き仰向あふのけたるを見れば、たちまちに碧玉へきぎよくの牡丹の花の嬋娟せんげんたる一枝あり。昌黎しやうれい驚いてこれを見るに、花の中に金字に書ける一聯いちれんの句あり。「雲横秦嶺家何在、雪擁藍関馬不前。云云」。昌黎不思儀の思ひを成して、これを読うで一唱いつしやう三嘆さんたんするに、句の優美遠長ゑんちやうなる体製ていせいのみあつて、その趣向落着らくぢやくの所を難知。手に採つてこれを見んとすれば、忽然こつぜんとして消え失せぬ。これよりしてこそ、韓湘かんしやうは仙術の道を得たりとは、天下の人に知られけれ。




昌黎(韓愈かんゆ)は重ねて申して、「お前の言うことを信じることはできない、今すぐ造化([造物主])の工([技])を得ることができたのか」と訊ねると、韓湘は何も答えず、前に置いてあった瑠璃([ガラス])の盆をひっくり返して、やがてまた元に戻したのを見れば、たちまちにして一枝のとても美しい碧玉の牡丹の花がそこにありました。昌黎は驚いてこれを見ると、花の中に金字で書いた一聯([一連])の句がありました。「雲が秦嶺山脈([中国中部を東西に貫く山脈])に横たわりどこに家があるかも知れない、雪は藍関らんかん([長安の東南三〇キロほどにある関所])を埋めて馬は前に進めない。うんぬん」。昌黎は不思儀の思いをなして、これを読んで一唱三嘆するに、句の優美は果てしなく、その趣きは止まるところを知りませんでした。昌黎が手に取ってこれを見ようとすると、忽然として消え失せてしまいました。こうして、韓湘が仙術の道を得たと、天下の人に知られるようになりました。


続く


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by santalab | 2015-11-27 06:20 | 太平記 | Comments(0)

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