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「太平記」青野原軍事付嚢沙背水事(その1)

坂東よりの後攻ごづめの勢、美濃の国に着きて評定しけるは、「将軍は定めて宇治・勢多の橋を引いて、御支へあらんずらん。去るほどならば国司の勢河を渡しかねて、いたづらに日を送るべし。その時御方の勢労兵らうへいつひえに乗つて、国司の勢を前後より攻めんに、勝つ事を立ち所に得つべし」とまうし合はれけるを、土岐とき頼遠黙然もくねんとして耳をかたぶけけるが、「そもそも目の前を打ち通る敵を、大勢なればとて、矢の一つをも射ずして、徒らに後日の弊えに乗らん事を待たん事は、ただ宋義そうぎが『蚊を殺すにはその馬を撃たず』と云ひしに似たるべし。天下てんがの人口ただこの一挙にあるべし。所詮自余の御事は知らず、頼遠に於いては命をきはの一合戦して、義に晒せるかばね九原きうげんの苔に留むべし」と、また余儀もなく申されければ、桃井もものゐ播磨のかみ、「某も如此存じ候ふ。面々はいかに」と申されければ、諸大将だいしやうことわりに服して、悉くこの儀にぞ同じける。




坂東よりの後詰め([敵の背後に回って攻めること])の勢が、美濃国に着いて評定するには、「将軍(室町幕府初代将軍、足利尊氏)はきっと宇治・勢多の橋を引いて、防いでいるであろう。ならば国司(北畠顕家あきいへ)の勢は川を渡りかねて、無駄に日を送ることになる。その時味方の勢が労兵の弊え([弱ること])に乗って、国司の勢を前後より攻めれば、たちまち勝つことができよう」と申し合っているのを、土岐頼遠はだまって聞いていましたが、「そもそも目の前を通る敵を、大勢だからと、矢の一つをも射ずして、無駄に後日の弊えに乗ろうと待つことは、ただ楚の宋義([項梁の後の楚の総大将となり項羽に殺害された])が『蚊を殺すにはその馬を撃たず』([細事にこだわって失敗するたとえ])と申したのと同じ。天下の人口はただこの一挙にあるのだ。他人のことは知らないが、この頼遠は命をかけて一合戦して、義に晒す屍を九原([墳墓])の苔に留めようと思うておる」と、異議なく申せば、桃井播磨守(桃井直常ただつね)も、「わたしも同じように思っております。面々はどうか」と申せば、諸大将も皆理に服して、残らずこの儀に同意しました。


続く


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by santalab | 2015-11-27 21:01 | 太平記 | Comments(0)

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