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「太平記」青野原軍事付嚢沙背水事(その5)

五番に桃井もものゐ播磨のかみ直常なほつね・土岐弾正少弼頼遠よりとほ、わざと鋭卒をすぐつて、一千余騎渺々べうべうたる青野原おをのがはらに打ち出でて、敵を西北に請けて控へたり。これには奥州あうしうの国司鎮守府の将軍しやうぐん顕家あきいへきやう・副将軍春日の少将せうしやう顕信あきのぶ、出羽・奥州あうしうの勢六万余騎を率して相向かふ。敵に御方を見合はすれば、千騎せんぎに一騎を合はすとも、なほ当たるに足らずと見けるところに、土岐と桃井と、少しも機を呑まれず、前に恐るべき敵なく、後ろに退くべき心ありとも見へざりけり。鬨の声を挙ぐるほどこそありけれ、千余騎ただ一手ひとてに成つて、大勢の中にさつと懸け入り、半時計はんじばかり戦つて、つと懸け抜けてその勢を見れば、三百余騎は討たれにけり。相残あひのこる勢七百余騎をまた一手につかねて、副将軍春日の少将の控へたる二万余騎が中へ懸け入つて、東へ追ひ靡け、南へ懸け散らし、汗馬かんばの足を休めず、太刀の鐔音つばおと止む時なく、や声を出だしてぞ戦ひ合ひたる。千騎が一騎に成るまでも、引くな引くなと互ひに気を励まして、ここを先途と戦ひけれども、敵雲霞の如くなれば、ここに囲まれかしこに取り篭められて、勢も尽き気もくつしければ、七百余騎の勢も、わづかに二十三騎に打ち成され、土岐は左の目の下より右の口脇・鼻まで、鋒深きつさきふかに切り付けられて、長森の城へ引き篭もる。桃井もものゐ三十さんじふ余箇度の懸け合ひに七十六騎しちじふろくきに打ち成され、馬の三図さんづ平首ひらくび二太刀切られ、草摺のはづれ三所突かれて、余りに戦ひ疲れければ、「この軍これに限るまじ、いざや人々馬の足休めん」と、州俣河すのまたがはに馬を追ひひたして、太刀・長刀なぎなたの血を洗うて、日も暮るれば野に下りて、つひに河より東へは越え給はず。




五番に桃井播磨守直常(桃井直常)・土岐弾正少弼頼遠(土岐頼遠)は、鋭卒を選って、一千余騎で渺々([果てしなく広い様])たる青野原(現岐阜県大垣市)に打ち出て、敵を西北に受けて控えました。これに奥州の国司鎮守府将軍顕家卿(北畠顕家)・副将軍春日少将顕信(北畠顕信。北畠顕家の弟)が、出羽・奥州の勢六万余騎を率して向かいました。敵に味方を見合あせれば、千騎に一騎を当てても、なおも取るに足りぬと思えましたが、土岐(頼遠)と桃井(直常)は、少しも臆せず、前に恐れる敵なく、後ろに退く心ありとも見えませんでした。鬨の声を上げるやいなや、千余騎はただ一手になって、大勢の中にさっと駆け入り、半時ばかり戦って、ぱっと駆け抜けてその勢を見れば、三百余騎が討たれていました。残る勢七百余騎をまた一手になして、副将軍春日少将(北畠顕信)が率いる二万余騎の中へ駆け入り、東へ追い退かせ、南へ駆け散らし、汗馬の足を休めず、太刀の鐔音止む時なく、や声([掛け声])を出してぞ戦いました。千騎が一騎になるとも、引くな引くなと互いに気を励まして、ここを先途([勝敗・運命などの 大事な分かれ目])と戦いましたが、敵は雲霞の如く大勢でしたので、ここに囲まれかしこに取り籠められて、勢も尽き気もくじけて、七百余騎の勢も、わずかに二十三騎に討ちなされ、土岐(頼遠)は左目の下より右の口脇・鼻まで、疵深く切り付けられて、長森城(現岐阜県岐阜市にあった城)に引き籠りました。桃井(直常)も三十余箇度の駆け合いで七十六騎に討ちなされ、馬の三図([牛馬の背の尻に近い高くなっている所])・平首([馬の首の、両側の平らな所])二太刀切られ、草摺([甲冑の胴の裾に垂れ,下半身を防御する部分])の外れを三所突かれて、あまりに戦い疲れて、「この軍はこれで終わるまい、ならば人々馬の足を休めよう」と、州俣川(長良川)に馬を追い漬して、太刀・長刀の血を洗い、日が暮れれば野に下りて、川より東へ越えることはありませんでした。


続く


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by santalab | 2015-11-28 21:32 | 太平記 | Comments(0)

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