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「太平記」長門探題降参の事(その2)

かしこの浦に帆を下ろさんとすれば、敵やじりを支へて待ち懸けたり。この島に艫綱ともづなを結ばんとすれば、官軍くわんぐん楯を並べて討たんとす。残り留まる人々にさへ、今は心を沖津波おきつなみ、可立帰方もなく、可寄所もなければ、世を浮き舟のかぢを絶え、思はぬ風にただよへり。跡に留めし妻子どもも、いかが成りぬらんと、責めてその行末ゆくへを聞きて後、心安く討ち死にをもせばやと被思ければ、しばらくの命を延べん為に、郎等らうどうを一人船より上げて、小弐・島津しまづが許へ、降人かうにんに可成由をぞ伝へける。小弐も島津も年来のよしみ浅からざりけるに、今の有様聞くもあはれにや思ひけん。急ぎ迎ひに来て、己が宿所に入れ奉る。




この浦に帆を下ろそうとすれば、敵が弓矢を構えて待ち構えていました。この島に艫綱を結ぼうとすれば、官軍を楯を並べて討とうと待ち受けていました。残り留まった者たちは、今は心は沖津波のように、返る所もなく、寄せる所もなくて、この世を楫を失った浮き舟のように、思いがけない風に漂うばかりでした。留め置いた妻子たちは、どうなったのかと心配で、せめてその行く方を聞いた後に、心安く討ち死にしたいと思い、北条時直ときなほはしばらく命を繋ごうと、郎等([家来])を一人船より陸に上げて、小弐(小弐貞経さだつね)・島津(島津貞久さだひさ)の許へ、降人となると伝えました。小弐(貞経)も島津(貞久)も年来の好みは浅くなかったので、今の有様を聞いて哀れに思いました。急ぎ迎えて、宿所に招き入れました。


続く


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by santalab | 2015-11-30 11:21 | 太平記 | Comments(0)

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