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「太平記」三宅・荻野謀反の付壬生地蔵の事(その4)

さてもこの日壬生みぶの在家に隠れ居たる謀反人ども、無被遁処皆討たれける中に、武蔵の国の住人ぢゆうにんに、香勾かうわ新左衛門しんざゑもん高遠たかとほと云ひける者ただ一人、地蔵菩薩ぢざうぼさつの命に替はらせ給ひけるに依つて、死を遁れけるこそ不思議なれ。所司代の勢すでに未明びめい四方しはうより押し寄せて、十重二十重とへはたへに取り巻きける時、この高遠ただ一人敵の中を打ち破つて、壬生の地蔵堂の中へぞわしり入つたりける。いづ方にか隠れましとかなたこなたを見るところに、寺僧かと思しき法師一人、堂の中より出でたりけるが、この高遠を打ち見て、「左様さやうの御姿にては叶ふまじく候ふ。この念珠ねんじゆにその太刀を取り代へて、持たせ給へ」と云ひける間、げにもと思ひて、この法師の云ふままにぞ随ひける。斯かりけるところに寄せ手ども四五十人しごじふにん堂の大庭へ走り入つて、門々を指して無残処ぞ捜しける。高遠は長念珠ながねんじゆを爪繰りて、「以大神通方便力いだいじんづうはうべんりき勿令堕在諸悪趣もつりやうだざいしよあくしゆ」と、高らかに啓白けいびやくしてぞ居たりける。寄せ手のつはものども皆見之、まことに参詣の人とや思ひけん、敢へて怪しめ咎むる者一人もなし。ただ仏壇の内天井てんじやうの上まで打ち破つて探せと許りぞ罵りける。




それにしてもこの日壬生の在家に隠れた謀反人どもが、逃れることなく皆討たれる中に、武蔵国の住人に、香勾新左衛門高遠(香勾高遠)という者一人だけは、地蔵菩薩が身代わりになって、死を逃れたのは不思議なことでした。所司代の勢はすでに未明に四方より押し寄せて、十重二十重に取り巻きましたが、高遠一人だけが敵の中を打ち破って、壬生地蔵堂(現京都市中京区壬生にある壬生寺)に走り入りました。どこに隠れようかとあちこちを見ていると、寺僧と思われる法師が一人、堂の中から出て来て、高遠を見て、「そのような姿ではとても逃れることはできません。この念珠と太刀を取り替えて、持たれよ」と言ったので、たしかにと思い、この法師の言うままに従いました。やがて寄せ手ども四五十人が堂の大庭に走り入ると、門々を指して残る所なく捜しました。高遠は長念珠を爪繰りながら、「大神通方便の力をもって、諸悪趣を地獄に堕としめよ」と、声を上げて啓白([神仏に願いを申し述べること])していました。寄せ手の兵どもはこれを見て、参詣の人と思ったか、怪しみ問いただす咎める者は一人もいませんでした。兵どもは仏壇の内天井の上まで打ち破って探せと叫びました。


続く


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by santalab | 2015-12-02 21:45 | 太平記 | Comments(0)

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