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「太平記」六波羅攻の事(その6)

長宗ながむねきつと見返みかへつて、「我が総角あげまきに取り付いて上がれ」と云ひければ、武部の七郎、妻鹿めがが鎧の上帯うはおびを踏んで肩に乗り上がり、一跳ね跳ねてて向かひの岸にぞ着きける。妻鹿からからと笑つて、「御辺は我を橋にして渡りたるや。いでその屏引き破つて捨てん」と云ふままに、岸より上へづんど跳ね上がり、屏柱の四五寸余りて見へたるに手を懸け、ゑいやゑいやと引くに一二丈掘り上げて、山の如くなる揚土あげつち、壁とともに崩れて、堀は平地に成りにけり。これを見て、築垣ついがきの上に三百余箇所掻き並べたるやぐらより、差し詰め引き詰め射ける矢、雨の降るよりもなほ繁し。長宗ながむねが鎧の菱縫ひしぬひ、兜の吹返ふきかへしに立つところの矢、少々り懸けて、高櫓の下へつと走り入り、両金剛こんがうの前に太刀をさかさまに突き、上咀うはぐひして立ちたるは、いづれを二王、いづれを孫三郎まごさぶらうとも分け兼ねたり。




長宗(妻鹿長宗)は振り返り、「わしの総角([鎧の背や兜の鉢の後ろの環につけた、揚巻結びの緒])に取り付いて上がれ」と言うと、武部七郎は、妻鹿の鎧の上帯([鎧の胴を締める緒])を踏んで肩に乗り上がり、一跳ね跳ねてて向こう岸に着きました。妻鹿はからからと笑って、「お主はこのわしの橋にして渡るか。さあその塀を破り捨てるぞ」と言うままに、岸より上へ勢いよく跳ね上がり、四五寸に余ると思える屏柱に手を懸けて、えいやえいやの掛け声とともに一二丈引き上げると、山のような揚土は、壁とともに崩れて、堀は平地になりました。これを見て、築垣の上に三百余箇所掻き並べた櫓より、差し詰め引き詰め射る矢は、雨が降るよりもなお激しいものでした。長宗の鎧の菱縫([菱縫の板]=[兜のしころ・鎧の袖・草摺の一番下の板])、兜の吹返し([兜の左右の錏の両端が上方へ折れ返っている部分])に立つ矢を、少々折り懸けて、高櫓の下へすばやく走り入ると、両金剛の前に太刀をさかさまに突いて、口を強く閉じて立った様は、いずれを仁王、いずれを孫三郎(妻鹿長宗)とも見分けかねました。


続く


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by santalab | 2015-12-16 07:36 | 太平記 | Comments(0)

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