Santa Lab's Blog


「太平記」山名京兆被参御方事

山名左京さきやうの大夫時氏ときうぢ・子息右衛門うゑもんすけ師氏もろうぢは、近年御敵になつて、南方と引き合ひて、両度まで都を傾けしかば、将軍の御為には上なき御敵なりしかども、内々縁にしよくし、「両度の不義まつたく将軍の御世を危ぶめ奉らんとにはあらず。ただ道誉だうよがあまりに本意なかりし振る舞ひを思ひ知らせん為ばかりにてさうらひき。その罪科を御宥免いうめんあつて、この間領知の国々をだにも恩補おんぼされ候はば、御方に参つて忠を致すべき」由をぞ申したりける。げにもこの人御方になるならば、国々の宮方力を落とすのみならず、西国もまた為すべきなしとて、近年押へて領知されつる因幡・伯耆の外、丹波・丹後・美作、五箇国の守護職を充て行はれければ、元来多年旧功きうこうの人々、皆手を空しくして、時氏父子の栄華えいぐわ、時ならぬ春を得たり。これをそねみて述懐じゆつくわいする者ども、多く所領を持たんと思はば、ただ御敵にこそなるべかりけれと、口をひそめけれども甲斐かひなし。「人物競紛花、麗駒逐鈿車。此時松与柏、不及道傍花」と、詩人のせし風諭ふうゆことば、げにもと思ひ知られたり。




山名左京大夫時氏(山名時氏)・子息右衛門佐師氏(山名師義もろよし。時氏嫡男)は、近年敵となって、南方に味方して、両度まで都を傾けました、将軍(室町幕府第二代将軍、足利義詮よしあきら)にとってはこの上ない敵でしたが、内々復縁して、「両度の不義は決して将軍の世を危ぶめるためではございません。ただ道誉(佐々木道誉)があまりに身勝手な振る舞いをしたので思い知らせるためばかりのことでございます。その罪科を宥免あって、この間に領知の国々をも恩補([恩賞として職に任ぜられること])されるのであれば、味方参り忠義を致します」申しました。まこと時氏が味方に付けば、国々の宮方(南朝)は力を落とすだけでなく、西国もまた謀反はできまいと、近年領知していた因幡・伯耆のほか、丹波・丹後・美作、五箇国の守護職に就けたので、元からの多年旧功([長年の功績])の人々は、恩恵に与ることができず、時氏父子の栄華は、時ならぬ春を得たようなものでした。これを妬んで述懐([恨み言を述べること。愚痴や不平を言うこと])する者どもは、多くの所領を持つには、ただ敵になるほかないと、口を顰めて陰口を申すばかりでどうにもなりませんでした。「人は花のように競い合い、美しい馬に繋いだ鈿車([螺鈿の装飾を施した車])乗る。所詮松や柏では、道ばたの花にも及ばないが」と、詩人が詠んだ風諭([たとえによって本義をそれとなく表現したり推察させたりする修辞法])の詞が、たしかにと思い知らされるのでした。


続く


[PR]
by santalab | 2015-12-16 12:37 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」仁木京兆降参事      「太平記」大森彦七事(その6) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧