Santa Lab's Blog


「太平記」大森彦七事(その7)

その後四五日を経て、雨一通ひととほり降り過ぎて、すさまじく吹き騒ぎ、いなびかり時々しければ、盛長もりなが、「今夜いかさまくだんの化け物来たりぬと思ゆ。さへぎつて待たばやと思ふなり」とて、中門に敷皮しきかは敷いてよろひ一縮いつしゆくし、二所藤ふたところどうの大弓に、中指し数多あまた抜き散らし、鼻膏はなあぶら引いて、化け物遅しとぞ待ち懸けたる。如案夜半過ぐるほどに、さしも無隈つる中空なかぞらの月、にはかに掻き曇りて、黒雲一叢ひとむら立ちおほへり。雲の中に声あつて、「いかに大森殿おほもりどのはここにおはしぬるか、先度被仰し剣を急ぎまゐらせられ候へとて、綸旨を被成て候ふ間、勅使に正成また罷り向かつて候ふは」と云ひければ、彦七聞きも不敢庭へ立ち出でて、「今夜は定めて来たり給ひぬらんと存じて、宵より奉待てこそ候へ。初めは何ともなき天狗・化け物などのして候ふ事ぞと存ぜし間、委細ゐさいの問答にも及び候はざりき。今確かに綸旨を帯したるぞとうけたまはり候へば、さては子細なき楠木殿にておはしさふらひけりと、信を取つてこそ候へ。事長々しきやうに候へども、不審の事どもをたづぬるにて候ふ。先づ相伴あひともなふ人数多あまたありげに見へ候はば、誰人にて御渡り候ふぞ。御辺は六道四生ろくだうししやうの間、いかなる所に生まれてをわしますぞ」と問ひければ、




その後四五日を経て、雨が一通り降り過ぎたかと思うと、風が激しく吹き騒ぎ、雷光りが時々したので、盛長(大森盛長)は、「今夜きっと化け物が来たと思うぞ。奴らの思う通りにはさせまいぞ」と申して、中門に敷皮敷いて鎧に身を固めて([一縮]=[鎧や武具に身を固めること])、二所藤の大弓に、中指し([征矢])を数多く抜き散らし、鼻脂引いて([滑らかにするために鼻脂をやじりに塗る。また、 入念に準備をする])、化け物遅しとぞ待ち構えました。思った通り夜半を過ぎるほどに、隈なき中空の月が、急に掻き曇り、黒雲が一叢月を覆いました。雲の中から声がして、「大森殿はここにおられたか、先度仰せのあった剣を急ぎ参らせよと、綸旨があったので、勅使として正成が再び参った」と言うと、彦七(盛長)は聞きも敢えず庭に出て、「今夜必ず来ると思って、宵より待っておったぞ。はじめは天狗・化け物が化けておるのだと思って、込み入った話はしなかったが。今確かに綸旨を携えておると聞いて、間違いなく楠木殿(楠木正成)であられると、確信した。どうでもよいことかも知れぬが、気になっていることを訊ねたい。まず相伴う人が数多くありげに見えるが、誰人か。御辺は六道四生([六道=地獄・餓鬼・ 畜生・修羅・人間・天上。における、胎生・卵生・湿生・化生の四種の生まれ方])の、どこに生まれたや」と訊ねました、


続く


[PR]
by santalab | 2015-12-17 07:29 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」大森彦七事(その8)      「太平記」六波羅攻の事(その7) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧