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「太平記」大森彦七事(その12)

警固の者どもはしを指して軒の上に登つて見れば、一つの牛のかしらあり。「これはいかさま楠木が乗りたる牛か、不然ばその魂魄こんぱくの宿れるものか」とて、この牛の頭を中門の柱に結ひ付けて置きたれば、終夜よもすがら鳴りはためきて動きける間、打ち砕いてすなはち水底にぞしづめける。その次の夜も月曇り風あらうして、怪しき気色に見へければ、警固の者ども大勢遠侍とほさぶらひ並居なみゐて、終夜むらじと、碁双六を打つてぞ遊びける。夜半過ぐるほどに、上下百余人ありける警固の者ども、同時にあつと云ひけるが、皆酒にへる者の如く成つて、かうべれてねぶり居たり。その座中に禅僧一人ねぶらでありけるが、ともしびの影より見れば、おほきなる寺蜘蛛やまぐも一つ天井より下がりて、寝入りたる人の上を這ひ行きて、また天井へぞ挙がりける。その後盛長もりながにはかに驚いて、「心得たり」と云ふままに、人と引つ組んだるていに見へて、上が下にぞかへしける。叶はぬ詮にや成りけん、「寄れや者ども」と呼びければ、そばに臥したる者ども起き挙がらんとするに、あるひは柱にもとどりを結ひ付けられ、あるひは人の手を我が足に結ひ合はせられて、ただ綱に懸かれるうをの如くなり。




警固の者どもが梯子を懸け軒の上に登って見れば、一つの牛の頭がありました。「これはきっと楠木(楠木正成)が乗っていた牛か、その魂魄([霊魂])が宿っていたものに違いない」と、この牛の頭を中門の柱に結び付けて置きましたが、夜通し鳴きあばれたので、打ち砕いてたちまち水底に沈めました。その次の夜も月曇り風は激しく、怪しい雰囲気でしたので、警固の者どもは大勢で遠侍をして、終夜眠るまいと、碁双六を打って遊んでいました。夜半を過ぎるほどに、上下百余人いた警固の者どもが、同時にあっと言ったかと思えば、皆酒に酔った者のように、頭を垂れて眠ってしまいました。その座中に禅僧一人だけは眠らずにいましたが、灯の光を通して見れば、大きな寺蜘蛛(土蜘蛛)が一匹天井より下がって、寝入った人の上を這って、また天井に上がって行きました。その後盛長はあっと驚いて、「待っておったぞ」と言うままに、人と引っ組んだように見えて、上が下に身を返しました。叶わぬように思えたか、「寄れや者ども」と叫んだので、傍に伏していた者どもは起き上がろうとしましたが、ある者は柱に髻を結い付けられ、ある者は人の手を我が足に結び付けられて、ただ綱に懸かった魚のように身動きできませんでした。


続く


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by santalab | 2015-12-18 07:27 | 太平記 | Comments(0)

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