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「太平記」大森彦七事(その13)

この禅僧余りの不思議さに、わしり立ちて見れば、さしも強力かうりきの者ども、わづかなる蜘のに手足を被繋て、更に働き得ざりけり。されども盛長もりなが、「化け物をば取つて押さへたるぞ。火を持つて寄れ」とまうしければ、警固の者どもとかくして起き挙がり、蝋燭らふそくとぼいて見るに、盛長が押さへたる膝を持ち挙げんと蠢動むぐめきける。諸人手に手を重ねて、逃がさじと推すほどに、おほきなる土器かはらけの破るる音して、微塵みぢんに砕けにけり。その後手を退けてこれを見れば、されたる死人のかうべ、眉間の半ばより砕けてぞ残りける。盛長大息おほいきを突いて、しばし心を静めて腰を探つて見れば、早やこの化け物に刀を取られ、鞘許りぞ残りにける。これを見て盛長、「我すでに疫鬼えききたましひを被奪、今はいかにたけく思ふとも叶ふまじ。我が命の事は物の数ならず、将軍の御運如何」と歎きて、色を変じ泪を流して、わなわなと振ひければ、聞く者見る人、悉く身の毛よ立つてぞさふらひける。




この禅僧はあまりの不思議さに、走り回って見れば、強力の者どもが、細い蜘蛛の糸に手足を繋がれて、まったく身動きできませんでした。けれども盛長(大森盛長)が、「化け物を押えたぞ。火を持って寄れ」と申したので、警固の者どもはやっとのことで起き上がり、蝋燭を灯して見れば、盛長が押さえた膝を持ち上げようとじたばたしていました。諸人が手に手を重ねて、逃がさじと押さえ付けると、大きな土器が壊れるような音がして、微塵に砕けました。その後手を退けてこれを見れば、晒された死人の首が、眉間の半ばより砕けていました。盛長は大きく息を吐いて、しばらく心を静めてから腰を探ると、早やこの化け物に刀を取られて、鞘ばかりが残っていました。これを見て盛長は、「わしはすでに疫鬼に魂を奪われた、今はいかに猛くとも叶うまい。我が命のことはどうでもよいが、将軍(足利尊氏)のご運はどうなることか」と嘆いて、顔色を変え涙を流して、肩を振るわせたので、聞く者見る人は、残らず身の毛立ちました。


続く


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by santalab | 2015-12-18 08:39 | 太平記 | Comments(0)

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