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「太平記」六波羅攻の事(その10)

名をしみ家を重んずる武士どもだにも如此。いかにいはんや主上しゆしやう上皇しやうくわうを始めまゐらせて、女院にようゐん皇后くわうごう・北の政所・月卿・雲客うんかくちご女童をんなわらは女房にようばうたちに至るまで、軍と云ふ事は未だ目にも見給はぬ事なれば、鬨の声矢叫びの音にぢをののかせ給ひて、「こはいかがすべき」と、消え入る計りの御気色おんきしよくなれば、げにもことわりなりと御痛はしき様を見進らするに就けても、両六波羅りやうろくはらいよいよ気を失つて、惘然ばうぜんていなり。今まで無二者と見へつる兵なれども、加様かやうに城中の色めきたる様を見て、叶はじとや思ひけん、夜に入りければ、木戸を開き逆茂木さかもぎを越えて、我先にと落ち行きけり。義を知り命をかろんじて残り留まるつはもの、わづかに千騎せんぎにも不足見へにけり。




名を惜しみ家を重んじる武士でさえこのような有様でした。言うまでもなく主上(北朝初代、光厳くわうごん天皇)・上皇(第九十三代後伏見院)をはじめ、女院(第九十二代伏見天皇女院、洞院季子すゑこ?)・皇后(西園寺鏱子しようし?伏見天皇中宮)・北政所・月卿([公卿])・雲客([殿上人])・児([上童うへわらは]=[公卿の子で、元服以前に作法見習いのため殿上の間に昇ることを許されて出仕した少年])・女童・女房たちにいたるまで、軍というものをこれまで見たこともありませんでしたので、鬨の声矢を射る音に怖じおののいて、「これはどうしたことか」と、消え入る様でした、まこと道理といたわしい姿を見るにつけても、両六波羅(北方、北条仲時なかとき。南方、北条時益ときます)はますます気落ちして、ただ惘然とするばかりでした。今まで二心なしと思えた兵でしたが、このように城中が動揺する様子を見て、とても敵わないと思ったか、夜に入ると、木戸を開き逆茂木を越えて、我先にと落ちて行きました。義を知り命を軽んじて残り留まった兵は、わずかに千騎にも及ばないように見えました。


続く


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by santalab | 2015-12-20 08:48 | 太平記 | Comments(0)

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