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「太平記」仁木京兆参南方事付大神宮御託宣事(その5)

またかたはらに仁木を引く者やと思しくて申しけるは、「この人わろき事はさる事なれども、また直人ただびととは思えず。鎌倉にては鶴岡つるがをかの八幡宮にて、ちごを斬り殺して神殿に血をそそき、八幡やはたにては、駒方の神人じんにん殺害せつがいして若干そくばくの神訴を負ふ。世の常の人にてこれほどの悪行をしたらんに、しばらくも安穏あんをんなる事や候ふべき。仙輿せんよ国王の五百人を殺し、斑足はんぞく太子の一千の王を害せしも、皆権者ごんじやの所変とこそうけたまはれ。これもただ人を贔屓してまうすにあらず。人の語り伝へし事の耳に留まりて候ふ間申すにて候ふなり。近年この人伊勢の国を管領して、在国したりしに、前々さらに公家武家手を不指神三郡かみさんぐんに打ち入つて、大神宮の御領ごりやう押領あふりやうす。これによつて祭主・神官じんぐわんら京都に上つて、公家に奏聞し武家に触れ訴ふ。開闢かいびやく以来いまだかかる不思議やあるとて、厳密の綸旨りんし御教書みげうしよをならせしかども、義長よしながかつて承引せず。あまつさへ我を訴訟しつるが憎きとて、五十鈴川をいて魚を捕り、神路山かみぢやまに入つて鷹を仕ふ。悪行日来に重畳ぢゆうでふせり。




また傍らに仁木(仁木義長よしなが)を贔屓する者と思われて申すには、「この人の悪行は確かにそうではあるが、他方では只人とも思えず。鎌倉では鶴岡八幡宮で、稚児を斬り殺して神殿を血で穢し、若干の神訴を受けた。世の常の人がこれほどの悪行をすれば、しばらくも安穏でいられようか。仙輿国王(仙予国王。釈迦の本生譚=前世。の一)が五百人を殺し、斑足太子(斑足王。インドの伝説上の王)が一千の王を害したが、皆権者の所変([神仏や鬼・霊などがこの世に姿をかえて 現れること])と聞いておる。これは義長を贔屓して申しているのではない。人が語り伝えたことを思い出して申したのだ。近年この人は伊勢国を管領して、在国していたが、前々よりまったく公家武家が手を出さなかった神三郡([伊勢国の度会わたらひ多気たけ、飯野郡])に打ち入って、大神宮(伊勢神宮)の御領を押領した。これによって祭主・神官らが京都に上って、公家に奏聞し武家に触れ訴えた。開闢([世の中のはじまり])以来いまだかかる不思議はないと、厳密の綸旨御教書を下されたが、義長は承引([承諾])しなかった。その上我を訴訟した者憎しと、五十鈴川を堰いて魚を捕り、神路山([伊勢神宮内宮の南方の山。天照あまてる山])に入って鷹狩りをしたのだ。悪行を日来重ねておる。


続く


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by santalab | 2015-12-24 09:12 | 太平記 | Comments(0)

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