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「太平記」大地震並夏雪事(その1)

同じき年の六月十八日の巳の刻より同じき十月に至るまで、大地をびたたしく動いて、日々夜々に止む時なし。山はくづれて谷をうづみ、海は傾いてくが地になりしかば、神社仏閣たふれ破れ、牛馬人民の死傷する事、幾千万と言ふ数を知らず。すべて山川・江河・林野・村落この災ひに遭はずと言ふ所なし。中にも阿波あはの雪のみなとと言ふ浦には、にはかに大山の如くなるうしほみなぎり来たつて、在家一千七百余宇、ことごとく引きしほに連れて海底にしづみしかば、家々に所有の僧俗・男女、牛馬・鶏犬、一つも残らず底の藻屑もくづとなりにけり。これをこそ希代きたいの不思議と見るところに、同じき六月二十二日、にはかに天掻き曇り雪降つて、氷寒ひようかんのはなはだしき事冬至の前後の如し。酒を飲みて身を暖め火を焚きゐるりを囲む人は、みづから寒を防ぐ頼りもあり、山路さんろ樵夫せうふ野径やけい旅人りよじん牧馬ぼくば林鹿りんろくことごとく氷に閉ざされ雪に臥して、こごへ死にする者数を知らず。




同じ康安こうあん元年(1361)六月十八日の巳の刻(午前十時頃)より同じ年の十月に至るまで、大地が激しく振動し、日々夜々止むことはありませんでした(正平地震)。山は崩れ谷を埋め、海は傾いて陸地になって、神社仏閣は倒壊し、牛馬人民の死傷数は、その数を知りませんでした。すべての山川・江河・林野・村落はこの災害に遭わない場所はありませんでした。中でも阿波国の雪の湊(現徳島県海部郡美波みなみ町)という浦には、突然大山のような大波が押し寄せて、在家一千七百宇余りが、一つ残らず引き潮とともに海底に沈んで、家々の僧俗・男女、牛馬・鶏犬は、一つ残らず海底の藻屑となりました。これこそ例のない不思議と思っているところに、同じ六月二十二日には、急に天が掻き曇り雪が降って、氷寒([いてつくような寒さ])はまるで冬至前後のようでした。酒を飲み身を暖め火を焚き囲炉裏を囲む人は、寒さを防ぐことができましたが、山路の樵夫([きこり])、野径([野路])の旅人、牧馬、林鹿はすべて氷に閉ざされ雪に倒れて、凍死するものは数知れませんでした。


続く


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by santalab | 2015-12-25 07:21 | 太平記 | Comments(0)

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