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「太平記」大地震並夏雪事(その3)

また八月二十四日の大地震に、雨荒く降り風激しく吹いて、虚空しばらく掻き暮れて見へけるが、難波の浦の沖より、大龍二つ浮き出でて、天王寺てんわうじ金堂こんだうの中へ入ると見えけるが、雲の中に鏑矢かぶらや鳴り響きて、ほこの光四方しはうにひらめきて、大龍と四天と戦ふていにぞ見へたりける。二つの竜去る時、また大地震おびたたしく動いて、金堂微塵みぢんに砕けにけり。されども四天は少しも損ぜさせ給はず。これはいかさま聖徳太子しやうとくたいし安置あんぢの仏舎利、このだうにおはしませば、竜王これを取り奉らんとするを、仏法護持の四天王してんわうしませ給ひけるかと思へたり。洛中辺土には、かたぶかぬ塔の九輪くりんもなく、熊野参詣の道には、地の裂ぬ所もなかりけり。旧記の載するところ、開闢かいびやくよりこの方かかる不思議なければ、この上にまたいかさまなる世の乱や出で来たらんずらんと、怖ぢ恐れぬ人はさらになし。




また八月二十四日の大地震では、雨が激しく降り風は激しく吹いて、空はしばらく暗くなりましたが、難波浦の沖より、大龍が二つ顕れて、天王寺(現大阪市四天王区にある寺)の近藤の中に入ろうとしているようでした、雲の中から鏑矢([射ると大きな音響を発して飛ぶ鏑をつけた矢])の音が鳴り響いて、戈([古代東アジアのピッケル状の長柄武])の光が四方にきらめいて、大龍と四天王([仏教の四人の守護神。東方の持国天、南方の増長天、西方の広目天、北方の多聞天])と戦うように見えました。二つの竜が去る時、また大地震が激しく揺れて、金堂はことごとく砕けました。けれども四天王は少しも損傷を負いませんでした。これはきっと聖徳太子が安置した仏舎利が、この金堂に納められていたので、竜王はこれを取ろうとしたのを、仏法護持の四天王が、惜しんでのことのように思えました。洛中(京)辺土(田舎)には、傾かない塔の九輪([寺の塔の頂上部、露盤上の柱にある九つの輪装飾])はなく、熊野参詣の道には、地割れのない所はありませんでした。旧記([昔の事柄を記した文書])に書かれているところ、開闢([世界の始まりの時])以来このような不思議はなく、さらにどのような世の乱れが起こるのだろうかと、怖じ恐れない者は一人もいませんでした。


続く


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by santalab | 2015-12-25 08:39 | 太平記 | Comments(0)

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