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「太平記」清氏反逆事付相摸守子息元服事(その4)

佐渡の判官入道はうぐわんにふだう道誉だうよこれを聞いて、すはや憎しと思ふ相摸の守が過失は、一つ出で来にけるはと独りみして、やぶ目配めくはせし居たるところに、外法成就げほふじやうじゆ志一しいち上人鎌倉より上つて、判官入道の許へをはしたり。様々の物語して、「さても都はかへつて旅にて、よろづさこそ便りなき御事にてこそ候ふらめ。誰か檀那だんなになり奉て、祈りなんどの事をも申し入れ候ふ」と問はれければ、「いまだ甲斐甲斐かひがひしき知音ちいん檀那等だんなとうも候はで、いつしか在京叶ひ難き心地して候ひつるに、細河相摸殿よりこそ、この一両日いちりやうにちが先に一大事の所願候ふ。とん成就じやうじゆある様に祈つてび候へとて、願書を一通ふうして、供具きようぐ料足れうそく一万疋添へて、贈られて候ひしか」と、語り給ひければ、道誉、「何事の所願にてか候らん」と、懇切こんせつに所望されける。なましひに語りは出だしつ、さのみしまん事も叶ひ難ければ、力なくこの願書をぞ取り寄せて披見させける。道誉この願書を内へ持て入つて、「ただ今ちと急ぐ事候ふ間外へ罷り出で候ふ。この願書はしづかに披見候ひて返し参らすべし。明日これへ御渡り候へ」とて、後ろの小門より出で違ひければ、志一上人重ねて言ひ入るるに言葉なくして、宿所へぞ帰り給ひける。




佐渡判官入道道誉(佐々木道誉)はこれを聞いて、あれほど憎いを思っていた相摸守(細川清氏きようぢ)の過失が、一つ起こったと独りほくそ笑んで、薮に目配せするところに([藪に目]=[どこでだれが見ているかわからず、秘密の漏れやすいことのたとえ])、外法([妖術])成就の志一上人が鎌倉より上って、判官入道(佐々木道誉)の許を訪ねました。様々の話しをして、「それにしてもせっかく都に参ったのに、頼る人もおらぬでは心細いことでしょう。誰か檀那([布施をする人])は見つかりましたか、祈りなどの依頼はありましたか」と訊ねると、「まだそれほどの知音([知人])檀那はおりません、いつまで在京できるかと心配しております、ただ細川相摸殿(細川清氏きようぢ)ばかり、一両日前に一大事の所願がございまして。たちまち成就するようにと祈られよと、願書を一通封して、供具([供物])の料足([費用])として一万疋(一疋=二反)を添えて、参られました」と、話せば、道誉は、「どのような所願でしたか」と、何度も訊ねました。志一上人は話した手前、隠すこともできなくて、仕方なくこの願書を取り出して見せました。道誉はこの願書を内へ持って入ると、「今から急ぎの用あって出て行かねばなりません。この願書は見てから返しましょう。明日ここへ来てください」と申して、裏の小門より出て行きました、志一上人は申す言葉もないままに、宿所に帰りました。


続く


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by santalab | 2015-12-26 10:26 | 太平記 | Comments(0)

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