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「太平記」清氏反逆事付相摸守子息元服事(その6)

かかるところに羽林将軍にはかに邪気の事あつて、有験うげんの高僧加持し奉れども静まらず、頭の痛み日を追つて増さる由聞こへしかば、道誉だうよ急ぎ参つて、「先日伊勢の入道にふだうの進じ候ひし清氏きようぢが願書をば御覧ぜられ候ひけるやらん」と、問ひ奉るに、「いまだ披露せず」とのたまふ。「さては御いたはりその故と思え候ふ」とて、急ぎ伊勢の入道を呼び寄せ、くだんの願書を召し出だして、羽林将軍に見せ奉る。その後幾程なくして邪気立ち去つて、違例ゐれい本復ほんぶくし給ひければ、「道誉だうよが申すところいつはらで、清氏が呪咀疑ひなかりけり」と、将軍これを信じ給ふ。その後また心付いて、八幡に清氏願書を籠めぬる事あるべからずとて、内々社務を召して問はれければ、「さる願書はふうして神馬じんめと送られて候ふが、やがて神殿に籠めて候ふ」と申しければ、「それ取り出だして奉るべし、いささか不審あり」と仰せありければ、やがて取り出だし持参しけり。これを披見し給ふにも、大樹の命を奪ひ、我が世を取らんとの発願ほつぐわんなり。いよいよ疑ふところなし。およそ志一しいち上人を上せられけるも、畠山、我奇特きどくの人と思ひ、同心に京・関東くわんとうを取らんとて、その祈祷の為に畠山吹挙すゐきよにて上られけり。




そうこうするところに羽林将軍(近衛中将。室町幕府第二代将軍、足利義詮よしあきら。足利尊氏の嫡男)はにわかに邪気を受けて、有験の高僧が加持しましたが静まりませんでした。頭の痛みが日を追って増すと聞いて、道誉(佐々木道誉)は急ぎ参って、「先日伊勢入道が参らせた清氏(細川清氏きようぢ)の願書をご覧になられたのでは」と、訊ねると、「まだ見せておりません」と申しました。「さてはご病気はそのためと思われる」と申して、急ぎ伊勢入道(佐々木高秀たかひで?佐々木道誉の子)を呼び寄せ、清氏の願書を出して、羽林将軍に見ました。その後ほどなくして邪気は立ち去って、病気は回復したので、「この道誉の申すところ偽りなく、清氏の呪咀は疑いない」と、将軍はこれを信じました。その後また気になって、八幡(現京都府八幡市にある石清水八幡宮)に清氏が願書を籠めたのではないかと、内々社務を呼んで訊ねると、「願書は封して神馬とともに送られて参りましたので、神殿に籠めてございます」と申したので、「それを取り出して奉れ、いささか不審のことがある」と命じたので、すぐに取り出して持参しました。これを見るにも、大樹の命を奪い、我が世を取るとの発願でした。ますます疑うところはありませんでした。志一上人を上せたのは、畠山(畠山国清くにきよ)が、奇特の人と思い、心同じくして京・関東を取ろうと、祈祷のために畠山が推挙して上らせたものでした。


続く


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by santalab | 2015-12-26 21:33 | 太平記 | Comments(0)

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