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「太平記」清氏反逆事付相摸守子息元服事(その8)

相摸のかみは天竜寺にて、京中のひしめきを聞いて、なんでふ今時洛中に何事の騒ぎあるべし。告ぐる者の誤りにてぞあらんとて、騒ぐ気色もなかりけるが、我が身の上と聞き定めてければ、三百余騎にて天竜寺てんりゆうじより打ち帰り、弟の僧愈侍者を今熊野へ参らせて、「洛中の騒動何事とも存知仕り候はで、急ぎ馳せ参つて候へば、清氏きようぢが身の上にて候ひける。罪科ざいくわ何事にて候ふやらん。もし無実のざんに依つて、死罪を行はれ候はば、政道の乱れ御敵のあざけり、これに過ぎべからず。しばらく御糺明きうめいの後に、罪科の実否じつぷを定めらるべきにて候はば、かうべを延べて軍門に参り候ふべし」とぞ申し入れたりけれども、「清氏が多日の隠謀、事すでに露顕ろけんの上は、とかくの沙汰に及ぶべからず」とて、使僧に対面もなく一言の返事にも及び給はねば、色を失ひて退出す。




相摸守(細川清氏きようぢ)は天龍寺(現京都市右京区にある寺院)で、京中がひしめき合うのを聞いて、どうしたことか洛中で何の騒ぎぞ。告げる者の誤りではないかと、騒ぐ様子もありませんでしたが、我が身の上と聞いて、三百余騎で天龍寺より帰ると、弟の僧愈侍者を今熊野(現京都市東山区にある今熊野観音寺)へ参らせて、「洛中の騒動が何事とも知らず、急ぎ馳せ参れば、清氏のことでございました。何の罪科によるものでございましょう。もし無実の讒により、死罪ともなれば、政道の乱れ敵の嘲り、これに過ぎるものはございません。しばらくも糺明([罪や不正を糾問し、真相 を明らかにすること])の後に、罪科の実否を定められるべきでございます、もし罪あらば頭を延べて軍門に参りましょう」と申し入れましたが、「清氏の多日の隠謀、事すでに露顕の上は、とかくの沙汰にも及ぶまい」と申して、使僧に対面もなく一言の返事もありませんでしたので、顔色を失って退出しました。


続く


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by santalab | 2015-12-27 08:54 | 太平記 | Comments(0)

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