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「太平記」清氏反逆事付相摸守子息元服事(その12)

ややしばらくあつて、「心憂き事をも承り候ふものかな。たとひこれより罷り帰りて候ふとも、讒人君のかたはらにあつて、頼む影なき世に立ち紛れ候はば、いつまで身をか保ち候ふべき。将軍には心を置かし参らせ、かたへの人には指を差され候はん事、恥の上の不覚たるべきにて候へば、いづくまでも伴ひ奉て、安否を見果て参らせん事こそ本意にて候へ」と、再三申されけれども、相摸の守、「さてはいよいよ我に隠謀ありけりと、世の人の思はんずるところが悲しく候へば、曲げてこれより帰られ候ひて、真実の心ざしあらば、後日にまた音信れも候へ」と、強ひて申されければ、二人ににんの人々、「この上の事はともかくも仰せにこそ従ひ候はめ」とて、泣く泣く千本より打ち別れて、本の宿所へぞ帰りにける。京中きやうぢゆうには、合戦あらば在家は一宇も残らずと、上下万人あわて騒ぎけるが、相摸の守事故なく都を落ちにければ、二十四日、将軍やがて今熊野より本のたちへ帰り給ふ。いつしか相州さうしう被官ひくわんの者ども、宿所を替へ身を隠したる有様、昨日の楽しみ今日の夢とあはれなり。有為転変うゐてんぺんの世の習ひ、今に始めぬ事なれども、不思議なりし事どもなり。




ややしばらくあって、「悲しいことを申されます。たとえこれより帰ったところで、讒人は君(室町幕府第二代将軍、足利義詮よしあきら。足利尊氏の嫡男)の近くにいて、頼む陰もない世で、いつまで身を保つことができましょう。将軍には心隔てられ、近くの人には指を指されて、恥の上に不覚([愚かなこと])ともなれば、どこまでもお供して、安否を見届けることこそ本意でございます」と、再三申しましたが、相摸守(細川清氏きようぢ)は、「そんなことをすればますます我に陰謀があったかと、世の人が思うであろうことが悲しい、ここは意を曲げてでもこれより帰り、まこと我のことが心配ならば、後日にまた文でも送れ」と、強く申したので、二人の人々も、「この上はともかくも仰せに従いましょう」と、泣く泣く千本(現京都市上京区)より別れて、宿所に帰りました。京中では、合戦あらば在家は一宇も残るまいと、上下万人があわて騒いでいましたが、相摸守(細川清氏)が何事もなく都を落ちたので、二十四日、将軍(足利義詮)は今熊野(現京都市東山区にある今熊野観音寺)より本の館に帰りました。いつしか相州(相模国のこと。細川清氏)の被官([武家の家臣・奉行人および 寺社の奉公人など])の者どもは、宿所を変え身を隠しましたが、昨日の楽しみ今日の夢と思えば哀れでした。有為転変([この世の中の事物一切は因縁によって仮に存在しているもので、常に移り変わっていくはかないものであるということ])の世の習い、今にはじまることではありませんでしたが、不思議なことでした。


続く


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by santalab | 2015-12-27 10:11 | 太平記 | Comments(0)

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