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「太平記」主上・上皇御沈落事(その8)

五月さつきの短か夜明け遣らで、関のこなたもくらければ、杉の木陰に駒を止めて、暫く休らはせ給ふところに、いづくより射るとも知らぬ流れ矢、主上しゆしやうの左の御肱おんひぢに立ちにけり。陶山すやま備中のかみ急ぎ馬より飛び下りて、矢を抜いて御きずを吸ふに、流るる血雪の御膚おんはだへを染めて、見まゐらするに目も当てられず。忝くも万乗のあるじ、卑しき匹夫の矢前やさきに被傷て、神竜しんりよう忽ちに釣者てうしやの網に懸かれる事、浅ましかりし世の中なり。




五月の短か夜が明けない頃、関の方もまだ暗く、杉の木陰に馬を止めて、しばらく休んでいると、どこから射るとも知らぬ流れ矢が、主上(北朝初代、光厳くわうごん天皇)の左肘に立ちました。陶山備中守(陶山義高)は急ぎ馬から飛び下りて、矢を抜いて傷口を吸うと、流れる血が雪のような肌を染めて、見るに堪えない姿でした。忝くも万乗の主が、卑しき匹夫の矢先に疵を負いました、神竜がたちまち釣者の網にかかる、浅ましい世の中でした。


続く


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by santalab | 2015-12-28 09:34 | 太平記 | Comments(0)

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