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「太平記」赤坂合戦の事付人見本間抜懸の事(その10)

ここに播磨の国の住人ぢゆうにん吉河きつかはの八郎と云ふ者、大将の前に来たつてまうしけるは、「この城の為体ていたらく、力攻めにし候はば無左右不可落候。楠木この一両年が間、和泉いづみ・河内を管領くわんりやうして、若干そこばく兵粮ひやうらうを取り入れて候ふなれば、兵粮も無左右尽き候まじ。つらつら思案を廻らし候ふに、この城三方さんぱうは谷深うして地に不継、一方は平地ひらちにてしかも山遠く隔たれり。さればいづくに水可有とも見へぬに、火矢ひやを射れば水弾みづはじきにて打ち消し候ふ。近来このごろは雨の降る事も候はぬに、これほどまで水のたくさんに候ふは、いかさま南の山の奥より、地の底にを伏せて、城中へ水を懸け入るるかと思え候ふ。あは人夫にんぶを集めて、山の腰を掘り切らせて、御覧候へかし」とまうしければ、大将、「げにも」とて、人夫を集め、城へ続きたる山の尾を、一文字に掘り切つて見れば、案の如く、土の底に二丈余りの下に樋を伏せて、そばに石を畳み、上に真木のかはらを覆せて、水を十町じつちよう余りの外よりぞ懸けたりける。




ここに播磨国の住人、吉河八郎という者が、大将(北条治時はるとき)の前に来て申すには、「この城の守りでは、力攻めしたところでやすやすと落とせるとは思えません。楠木(楠木正成)はこの一両年の間、和泉・河内を管領して、若干の兵粮を取り入れておりましょうから、兵粮もすぐに尽きることはないでしょう。よくよく思案すれば、この城の三方は谷深く地に続いておりません、一方は平地でしかも山から遠く離れております。なればどこに水があるとも思えませんが、火矢を射れば水弾き([空気の圧力を利用して水を遠くまで噴出させる仕掛けの機械])で打ち消します。この頃は雨が降ることもありませんでしたのに、これほどまでに水がたくさんありますのは、きっと南の山の奥より、地の底に樋([かけひ]=[水を流す筒状の樋])を隠して、城中へ水を通しているのではないかと思うのです。どうか人夫を集めて、山の腰を掘り切らせて、確かめられますよう」と申せば、大将(北条治時)は、「なるほどの」と申して、人夫を集め、城へ続く山の尾を、一文字に掘り切って見れば、その通り、土の底二丈余りの下に樋を伏せて、側に石を畳み、上に真木(槙)を瓦にして、水を十町あまりの外から通していました。


続く


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by santalab | 2016-01-03 11:33 | 太平記 | Comments(0)

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