Santa Lab's Blog


「太平記」赤坂合戦の事付人見本間抜懸の事(その12)

去るほどに次日軍の最中に、平野入道高櫓たかやぐらに上つて、「大将の御方へ可申子細候ふ。暫く合戦を止めて、聞こし召し候へ」と云ひければ、大将渋谷十郎を以つて、事のやうたづぬるに、平野木戸口に出で合つて、「楠木和泉・河内の両国を平げて威を振るひさふらひし刻みに、一旦の難を遁れん為に、不心御敵にしよくして候ひき。この子細京都に参じ候うて、まうし入れ候はんと仕り候ふ処に、已に大勢を以つて被押懸け申し候ふあひだ、弓矢取る身の習ひにて候へば、一矢仕りたるにて候ふ。その罪科ざいくわをだに可有御免にて候はば、首を延べて降人かうにんに可参候。もし叶ふまじきとの御定ごぢやうにて候はば、無力一矢仕つて、かばねを陣中に曝すべきにて候ふ。この様をつぶさに被申候へ」と云ひければ、大将おほきに喜びて、本領安堵ほんりやうあんど御教書みげうしよを成し、殊に功あらん者には、すなはち恩賞を可申沙汰由返答して、合戦をぞ止めける。城中じやうちゆうに篭もるところのつはもの二百八十二人にひやくはちじふににん明日みやうにち死なんずる命をも不知、水にかつせる難堪さに、皆降人に成つてぞ出でたりける。




やがて次の日軍の最中に、平野入道(平野重吉しげよし)は高櫓に上って、「大将の御方へ申すべき子細がございます。しばらく合戦を止めて、お聞きくだされ」と申せば、大将渋谷十郎(渋谷宗重むねしげ)を以って、事の様を尋ねると、平野は木戸口に出て、「楠木(楠木正成)が和泉・河内両国を平げて威を振るっておりますれば、一旦の難を遁れるために、心ならずも敵となりました。事情を京都に参り、申し開こうと思っておりましたが、大勢で攻められて、弓矢取る身の習いでございますれば、一矢仕った次第でございます。その罪科をお許しくださいますれば、首を延べて降人に参りましょう。もし許されないとの御定でございますれば、仕方ございません一矢仕り、屍を陣中に曝すべき覚悟でございます。意向をお聞かせくださいますよう」と申せば、大将(渋谷宗重)はたいそうよろこんで、本領安堵([本領の領有権をそのまま幕府や守護が認めること])の御教書([通達文書])を示し、特に功ある者には、恩賞を与えると返答して、合戦を止めました。城中に籠っていた二百八十二人の兵は、明日には死ぬ命とも知らず、喉の渇きに堪えかねて、皆降人になって城を出ました。


続く


[PR]
by santalab | 2016-01-03 15:30 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」赤坂合戦の事付人見本...      「太平記」赤坂合戦の事付人見本... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
さらに付け加えますと、こ..
by 八島 守 at 09:03
おそらく「国民文庫」だと..
by santalab at 21:09
こんにちは。今日はSan..
by 佐藤綾乃 at 18:44
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧