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「太平記」赤坂合戦の事付人見本間抜懸の事(その13)

長崎九郎左衛門さゑもんじようこれを請け取りて、先づ降人の法なればとて、物の具・太刀・刀を奪ひ取り、高手小手たかてこていましめて六波羅へぞ渡しける。降人のともがら、如此ならばただ討ち死にすべかりけるものをと、後悔すれども無甲斐。日を経て京都に着きしかば、六波羅に誡め置いて、合戦の事始めなれば、軍神いくさがみに祭りて人に見懲みごりさせよとて、六条河原ろくでうかはらに引き出だし、一人も不残首を刎ねて被懸けり。これを聞きてぞ、吉野・金剛山こんがうせんに篭もりたるつはものどもも、いよいよ獅子の歯嚼はがみをして、降人かうにんに出でんと思ふ者はなかりけり。「罪を緩ふするは将のはかりごとなり」と云ふ事を知らざりける六波羅の成敗を、皆人毎に押し並べて、しかりけりとまうせしが、幾程もなうして悉く亡びけるこそ不思議なれ。情けは人の為ならず。余りに驕りをきはめつつ、雅意がいに任せて振る舞へば、武運も早く尽きにけり。因果いんぐわ道理だうりを知るならば、可有心こころあるべき事どもなり。




長崎九郎左衛門尉(長崎師宗もろむね)は降人どもを受け取り、降人の掟なればと、物の具([武具])・太刀・刀を奪い取り、高手小手([両手を後ろに回して、首から縄をかけ、 二の腕から手首まで厳重に縛り上げること])に縛り上げ六波羅に送りました。降人の者どもは、こうなると知っていたならば討ち死にすべきであったと、後悔しましたが後の祭りでした。日を経て京都に着くと、六波羅に閉じ込められて、合戦の事始めなれば、軍神に祭り晒し者にせよと、六条河原に引き出し、一人残らず首を刎ねて獄門に懸けました。これを聞いて、吉野(現奈良県吉野郡吉野町)・金剛山(現奈良県御所市と大阪府南河内郡千早赤阪村との境にある山)に篭もっていた兵どもは、ますます獅子の歯嚼み([獅子が恐ろしい形相で怒ること。ひどく怒ることのたとえ])して、降人になろうと思う者はいませんでした。「罪を緩くするのは将の謀である」という言葉を知らない六波羅の成敗を、誰かれも、間違いだと申しましたが、幾程もなくして一人残らず亡びたのは不思議なことでした。情けは人の為ならず。余りに驕りに耽り、雅意([我意]=[自分の考えを押し通そうとする気持ち])に任せて振る舞えばこそ、武運は早くも尽きたのでした。因果の道理を知るならば、情けをかけるべきなのです。


続く


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by santalab | 2016-01-03 15:36 | 太平記 | Comments(0)

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