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「太平記」笠置囚人死罪流刑の事付藤房卿の事(その2)

罪科ざいくわあるもあらざるも、先朝拝趨せんてうはいすうの月卿・雲客、あるひは被停出仕、尋桃源迹、或被解官職、懐首陽愁、運の通塞つうそく、時の否泰ひたい、為夢為幻、時遷り事去つて哀楽かたみ相替あひかはる。憂きを習ひの世の中に、楽しんでも何かせん、歎いても由なかるべし。げん中納言ぢゆうなごん具行ともゆききやうをば、佐々木の佐渡の判官はんぐわん入道道誉だうよ路次ろしを警固仕りて鎌倉へ下し奉る。道にて可被失由、兼ねて告げまうす人やありけん、逢坂あふさかの関を越え給ふとて、帰るべき時しなければ、

これやこの 行くを限りの 逢坂の関

勢多の橋を渡るとて、
今日けふのみと 思ふ我が身の 夢の世を 渡る物かは せたの長橋




罪科ある者そうでない者も、先朝(第九十六代後醍醐天皇)に拝趨([出向くことをへりくだっていう語])していた月卿([公卿])・雲客([殿上人])は、あるいは出仕を止められ、桃源([俗世間を離れた平和な世界])の跡を尋ね、ある者は官職を解かれ、首陽山([中国周初、伯夷はくい叔斉しゆくせいが隠れて餓死したと伝えられる山])の憂いを懐かしみ、運の通塞([運が開けることと開けないこと。幸と不幸])、時の否泰(通塞に同じ)、夢か幻か、時は移り事は去って哀楽は入れ替わりました。悲しみの世の中で、楽しんだところで何になろう、嘆いたところで仕方のないことでした。源中納言具行卿(北畠具行)を、佐々木佐渡判官入道道誉(佐々木道誉)が、道中警固して鎌倉に下しました。道中で失うべしと、かねて具行に告げ申す人があったのか、逢坂の関(現滋賀県大津市)を越える時、

「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」と蝉丸が詠んだ逢坂の関だが、このわたしはこの関を再び帰ることはないのだろう。

勢多の橋(現滋賀県大津市勢田)を渡りながら、
今日ばかりの命と思えば、この勢田の長橋を渡るほども、夢の世に永らえることができるとは思えない。


続く


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by santalab | 2016-01-04 07:38 | 太平記 | Comments(0)

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