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「太平記」龍泉寺軍の事(その2)

ある時土岐桔梗一揆の中に、ちとなま才覚ざいかくありける老武者、竜山りゆうせんじやうをつくづくと守り居たりけるが、その衆中に語つて云はく、「太公が兵書の塁虚篇るゐきよへんに、望其塁上飛鳥不驚、必知敵詐而為偶人なりといへり。我この三四日相近付いて竜泉の城を見るに、天に飛ぶとび林に帰るからす、かつて驚く事なし。如何様これは大勢の篭もりたるていを見せて、旗許りをここかしこに立て置きたりと思ゆるぞ。いざや人々他の勢を不交この一揆許り向かつて竜泉を責め落とし、天下の称歎に備へん」と云ひければ、桔梗一揆の衆五百余騎、皆、「可然」とぞ同じける。さらばやがて打つ立てとて、うるふ四月二十九日の暁、桔梗一揆五百余騎、忍びやかに津々山つづやまより下りて、まだ篠目しののめの明け果てぬ霧の紛れに、竜泉の一の木戸口に推し寄せ、同音に鬨をどつと作る。




ある時土岐桔梗一揆(土岐の家紋は土岐桔梗)の中に、少々智恵のある老武者がいました、竜山城龍泉寺城(現大阪府富田林市)をじっと見ていましたが、衆中に語って申すには、「太公(太公望)の兵書の塁虚篇(『太公六韜』)に、その塁上を望むに飛鳥驚かずば、必ず敵偽りて偶人を創ることを知るなりと書かれておる。わしはこの三四日近付いて竜泉城を見ておったが、天に飛ぶ鳶林に帰る烏が、驚くことはなかった。きっとこれは大勢が籠もっているように見せて、旗ばかりをここかしこに立て置いたと思うぞ。どうじゃ人々よ他の勢を交えずわしら一揆ばかりで向かい竜泉城を攻め落とし、天下の称歎([感心してほめたたえること])を得ようではないか」と言えば、桔梗一揆の衆五百余騎も、皆、「そうしよう」と同意しました。ならばすぐに打ち立とうと、閏四月二十九日の暁、桔梗一揆五百余騎は、忍びやかに津々山より下りて、まだ東雲([東の空がわずかに明るくなる頃])も明け果てぬうちに朝霧に紛れて、竜泉城の一の木戸口に押し寄せ、同時に鬨をどっと作りました。


続く


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by santalab | 2016-01-06 18:27 | 太平記 | Comments(0)

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