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「太平記」龍泉寺軍の事(その3)

細川相摸のかみ清氏きようぢと、赤松彦五郎範実のりざねとは、津々山の役所を双べて居たりけるが、竜泉の鬨の声を聞いて、「あはや人にさきを懸けられぬるは。ただしじやうへ切つて入らんずる事は、また一重いちぢゆうの大事ぞ。それをこそまことの先懸けとは云ふべけれ。馬に鞍置け旗差し急げ」と云ふほどこそありけれ。相摸の守と彦五郎と、鎧取つて肩に投げ懸け、道々高紐たかひぼ堅めて、竜泉の西の一の城戸、高櫓の下へ懸け上げたり。ここにて馬を蹈み放し、後ろをきつと見たれば、赤松が手の者に、田宮たなみや弾正だんじやうちゆう・木所彦五郎・高見彦四郎ひこしらう、三騎続ひたり。その迹を見れば、相摸の守の郎従六七十、かけ堀とも云はず我先にと馳せ来る。その旗差し、高岸に馬の鼻を突かせて、上り兼ねたるを見て、相摸の守みづかわしり下りて、その旗をおつ取つて、切岸の前に突き立て、「先懸けは清氏にあり」と高声かうしやうに名乗りければ、赤松彦五郎城の中へ入り、「先懸けは範実にて候ふ。後の証拠しようごに立ちて給はり候へ」と声々に名乗つて、屏の上をぞ越えたりける。




細川相摸守清氏(細川清氏)と、赤松彦五郎範実(赤松範実)は、津々山(現大阪府富田林市)に役所([戦陣で、将士が本拠としている所])を並べていましたが、竜泉城(現大阪府富田林市)の鬨の声を聞いて、「なんと先を駆けられた。ただし城へ切って入ることは、まして大事なことぞ。それこそまことの先駆けというものだ。馬に鞍を置け旗差し([戦場で、大将の旗印を持つ侍])急げ」と言う間もありませんでした。相摸守(細川清氏)と彦五郎(赤松範実)は、鎧を取って肩に投げ懸けると、道々で高紐([鎧の胴の綿上わたがみと胸板とをつなぐ紐])を締めながら、竜泉城の西の一の城戸、高櫓の下へ駆け上りました。ここで鐙を外して、後ろを振り返ると、赤松(範実)の手の者に、田宮弾正忠・木所彦五郎・高見彦四郎、三騎が続きました。その後を見れば、相摸守(細川清氏)の郎従([家来])六七十が、かけ堀(崖掘?)もかまわず我先にと馳せ来ました。旗差しの馬が、高岸に怖気づいて、上るのをためらうのを見て、、相摸守は自ら走り下りると、その旗を奪い取って、切岸の前に突き立て、「先駆けはこの清氏ぞ」と大声で名乗りを上げると、赤松彦五郎(範実)は城の中へ入り、「先駆けはこの範実でござる。後の証拠に立って見せましょう」とそれぞれ声々に名乗って、屏の上を越えました。


続く


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by santalab | 2016-01-06 18:30 | 太平記 | Comments(0)

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