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「太平記」三浦大多和合戦意見の事(その6)

かかるところに、六波羅没落して、近江あふみの番馬にて、悉く自害の由告げ来たりければ、只今大敵と戦ふうちに、この事を聞いて、大火おほびを打ち消して、あきれ果てたる事限りなし。その所従・眷属どもこれを聞いて、泣き歎き憂へ悲しむこと、たとへをとるに物なし。いかにたけく勇める人々も、足手もゆる心地して東西をもさらにわきまへず。しかりといへども、この大敵を退けてこそ、京都へも討つ手を上さんずれとて、先づ鎌倉の軍評定いくさひやうぢやうをぞせられける。この事敵に知らせじとせしかども、隠れあるべき事ならねばやがて聞こへて、あは潤色じゆんしよくやと、悦び勇まぬ者はなし。




そうこうするところに、六波羅が没落して、近江の番馬(現滋賀県米原市)で、残らず自害したと告げ知らせたので、大敵と戦う中で、この事を聞いて、大火を打ち消した暗闇の中で、茫然とするようでした。所従([家来])・眷属([一門])どもはこれを聞いて、泣き歎き憂い悲しむこと、たとえようもありませんでした。勇敢な人々でさえ、手足の力を失い東西も不覚な有様でした。とはいえ、関東の大敵を退けてこそ、京都へも討っ手を上すことができようと、まず鎌倉の軍評定がありました。京都のことを敵には知らせまいとしましたが、隠せることではありませんでしたのでやがて聞こえて、潤色([光彩を添え飾ること])ではないかと、悦び勇まぬ者はいませんでした。


続く


by santalab | 2016-01-07 07:22 | 太平記

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