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「太平記」天下怪異の事(その2)

卜部うらべ宿祢すくね大亀だいきを焼いて占ひ、陰陽おんやうの博士、占文せんもんひらいて見るに、「国王くらゐへ、大臣遭災」とあり。「勘文かんぶんの表不穏、もつとも御慎み可有」と密奏す。寺々の火災所々の地震只事に非ず。今や不思義出で来ると人々心を驚かしけるところに、果たしてその年の八月二十二日、東使両人三千余騎にて上洛しやうらくすと聞こへしかば、何事とは知らず京にまたいかなる事やあらんずらんと、近国きんごくの軍勢我も我もと馳せ集まる。京中きやうぢゆう何となく、もつてのほかに騒動さうどうす。両使りやうしすでに京着きやうちやくして未だ文箱ふばこをも開かぬ先に、何とかして聞こへけん。「この度東使の上洛は主上しゆしやう遠国をんごくへ遷しまゐらせ、大塔宮おほたふのみやを死罪に行ひ奉らん為なり」と、山門に披露ありければ、八月二十四日の夜に入つて、大塔宮より潛かに御使ひを以つて主上へ申させ給ひけるは、「今度東使上洛の事内々うけたまはり候へば、皇居くわうきよを遠国へ遷し奉り、尊雲そんうんを死罪に行はん為にて候ふなる。今夜急ぎ南都の方へ御忍び候ふべし。城郭未だ調はず、官軍くわんぐん馳せ参ぜざる先に、凶徒もし皇居くわうきよに寄せ来たらば、御方防ぎ戦ふに利を失ひ候はんか。かつうは京都の敵をさへぎり止めんが為、または衆徒しゆとの心を見んが為に、近臣を一人、天子のがうを許されて山門へ被上せ、臨幸りんかうの由を披露候はば、敵軍定めて叡山えいさんに向かつて合戦を致し候はんか。去るほどならば衆徒我が山を思ふゆゑに、防ぎ戦ふに身命しんみやうかろんじ候べし。凶徒力疲れ合戦数日すじつに及ばば、伊賀・伊勢・大和・河内かはちの官軍を以つてかへつて京都を被攻んに、凶徒の誅戮ちゆうりくくびすめぐらすべからず。国家の安危ただこの一挙に可有候也」と被申たりける間、主上ただあきれさせ給へる計りにて何の御沙汰にも及び給はず。




卜部宿祢は、大亀を焼いて占い、陰陽博士は、占文([占い定めた事柄を記した文書])を引くと、「国王は位を替え、大臣は災いに遭う」とありました。「勘文([朝廷の諮問に対して前例の故実などを調査し,上申した意見文書])の意味するところ穏やかならず、もっとも慎みあるべし」と密奏しました。寺々の火災所々の地震は只事ではありませんでした。今にも不思義が起こると人々は心を驚かすところに、果たしてその年(元弘元年(1331))の八月二十二日に、東使([鎌倉時代に鎌倉幕府から京都にある朝廷や六波羅 探題、関東申次などに派遣された使者])両人が三千余騎で上洛すると聞こえました、何事とは知りませんでした。したが京にまたどんな事が起こるかと、近国の軍勢が我も我もと馳せ集まりました。京中は何事とも知れませんでしたが、とんでもなく騒ぎになりました。両使が京着しまだ文箱も開かぬ前に、どうして聞こえたのか。「この度の東使の上洛は主上(第九十六代後醍醐天皇)を遠国に遷らせ、大塔宮(後醍醐天皇の皇子、護良もりよし親王)を死罪になすためである」と、山門(延暦寺)に知らせがあったので、八月二十四日の夜に入って、大塔宮より密かに使いをもって主上に申し上げるには、「今度の東使上洛のこと内々聞けば、皇居(後醍醐天皇)を遠国に遷し、尊雲(尊雲法親王=護良親王)を死罪にするためということです。今夜急ぎ南都(奈良)の方へお忍びなさいますよう。城郭もまだ調わず、官軍が馳せ参らぬ先に、凶徒が皇居に攻め寄せれば、味方が防ぎ戦ったところで負けるのではありませんか。また京都の敵を妨げるため、また衆徒([僧])の心を覗うために、近臣を一人、天子の号([名])を許されて山門に上せ、臨幸の由披露されれば、敵軍はきっと叡山(比叡山)に向かって合戦をするのではないでしょうか。そうすれば衆徒は我が山を思う故に、身命を軽んじて防ぎ戦いましょう。凶徒が戦い疲れ合戦が数日に及べば、伊賀・伊勢・大和・河内の官軍をもって京都を攻めれば、凶徒の誅戮([罪ある者を殺すこと])はたちまちのことでございます。国家の安危はただこの一挙に懸かっております」と申しましたが、主上ただあきれるばかりで何の沙汰にも及びませんでした。


続く


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by santalab | 2016-01-13 13:15 | 太平記 | Comments(0)

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