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「太平記」天下怪異の事(その3)

ゐんの大納言師賢もろかた万里小路までのこうぢ中納言藤房ふぢふさ・同じき舎弟季房すゑふさ三四人さんしにん上臥うへししたるを御前おんまへに召されて、「この事いかん可有」と被仰出ければ、藤房のきやう進んで被申けるは、「逆臣君ををかし奉らんとする時、暫くその難をけてかへつて国家を保つは、前蹤ぜんじよう佳例かれいにて候ふ。いはゆる重耳ちようじてきはしり、太王だいわうひんに行く。共に王業わうげふをなして子孫無窮しそんぶきゆうに光をかかやかし候ひき。とかくの御思案に及び候はば、夜も深けさふらひなん。早や御忍び候へ」とて、御車を差し寄せ、三種さんじゆ神器じんぎを乗せ奉り、下簾したすだれより出衣だしぎぬを出だして女房車にようばうぐるまていに見せ、主上を扶け乗せまゐらせて、陽明門やうめいもんより成し奉る。




尹大納言師賢(尹師賢)・万里小路中納言藤房(万里小路藤房)・その弟季房(万里小路季房)三四人が上臥し([宮中や院の御所に宿直すること])していましたので御前に召されて、「この事いががあるべき」と申されると、藤房卿が進み出て申すには、「逆臣が君を犯そうとする時、しばらくその難を避けて国家を保つこと、前蹤([前例])すべて佳例([吉例])でございます。かの重耳(文公。中国春秋時代の晋の君主)は白狄(母の故郷)に逃げ、太王(古公亶父ここうたんぽ。周王朝初代武王の曾祖父。周の先王の一人)は豳に向かいました(正しくは豳から逃れた)。ともに王業をなして子孫は無窮([永遠])栄華を極めました。ためらっておられるほどに、夜が深けてしまいます。急ぎお忍びなさいますよう」と申して、車を差し寄せ、三種の神器を車に乗せ、下簾([牛車の前後の簾の内側にかけて垂らす二筋の長い布])より出衣出絹([寝殿や牛車の簾の下から、女房装束の袖や裾先を出すこと])を出して女房車のように見せ、主上(第九十六代後醍醐天皇)を勧め乗せると、陽明門([大内裏の東面の門])より出て行きました。


続く


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by santalab | 2016-01-13 13:19 | 太平記 | Comments(0)

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