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「太平記」稲村崎成干潟事(その2)

げにもこの陣の寄せ手、叶はで引きぬらんもことわりなりと見給ひければ、義貞馬より下り給ひて、兜を脱いで海上を遥々と伏しをがみ、竜神に向かつて祈誓し給ひける。「伝へ奉る、日本につぽん開闢かいびやくあるじ、伊勢天照太神あまてらすおほみかみは、本地ほんち大日たいにちの尊像に隠し、垂跡すゐじやく滄海さうかいの竜神にあらはし給へりと、我が君その苗裔べうえいとして、逆臣の為に西海の浪に漂ひ給ふ。義貞今臣たる道を尽くさん為に、斧鉞ふえつつて敵陣に臨む。その心ざしひとへに王化わうくわたすけ奉つて、蒼生さうせいを令安となり。あふぎ願はくは内海外海ないかいげかいの竜神八部、臣が忠義をかんがみて、うしほを万里の外に退け、道を三軍の陣に令開給へ」と、至信に祈念し、自ら佩き給へる金作こがねづくりの太刀を抜いて、海中へ投げ給ひけり。




なるほどこの陣では寄せ手は、敵わず引き下がったのも当然と見て、義貞(新田義貞)は馬から下りると、兜を脱ぎ海上を遙々と眺めながら伏し拝み、竜神に向かって祈誓しました。「伝え聞くところ、日本開闢([創世])の主であられる、伊勢神宮天照大神は、本地を大日如来、垂跡を大海の竜神として現れたとお聞きしておりますが、今我が君(第九十六代後醍醐天皇)は天照大神の苗裔([子孫])として、逆臣のために西海の浪の上に漂っておられます。この義貞は今臣の道を尽くすために、斧鉞([昔、中国で君主が出征の将軍に授けた、生殺与奪の権や統率者の地位を象徴した刑具])を取って敵陣に臨んでおります。その願いはただ一つ王化を助け、蒼生([人民])を安心させるためでございます。仰ぎ申し上げます願わくは内海外海の竜神八部([龍神八部衆]=[仏法を守護する異教の諸神])よ、臣の忠義を推し量り、潮を万里の外に退け、道を三軍([全軍])に開かれますよう」と、心を尽くして祈念し、佩いていた黄金作りの太刀([太刀の金具を金銅づくりにしたもの])を抜いて、海中に投げ入れました。


続く


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by santalab | 2016-01-15 07:17 | 太平記 | Comments(0)

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