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「太平記」笠置軍事付陶山小見山夜討事(その2)

城に篭もるところの官軍くわんぐんは、さまで大勢おほぜいならずと云へども、勇気未だたゆまず、天下の機を呑んで、回天くわいてんの力を出ださんと思へる者どもなれば、わづかの小勢を見て、なじかは打つて懸からざらん。その勢三千余騎、木津河きづがはの辺にり合うて、高橋が勢を取り篭めて、一人も余さじと責め戦ふ。高橋始めのいきほひにも似ず、敵の大勢を見て、一返ひとかへしも不返捨て鞭を打つて引きける間、木津河の逆巻くみづに被追浸、被討者その数若干そくばくなり。わづかに命許りをたすかる者も、むま物の具を捨てて赤裸あかはだかになり、白昼はくちうに京都へ逃げ上る。見苦しかりし有様なり。これをにくしと思ふ者やしたりけん。平等院の橋爪に、一首の歌を書いてぞ立てたりける。

木津川の 瀬々の岩浪 早ければ 懸けて程なく 落つる高橋




城に籠もる官軍は、さほど大勢ではありませんでしたが、勇気をまだ失わず、天下の機を得て、回天([衰えた勢いを盛り返すこと])の力を出そうと思っている者どもだしたので、わずかの小勢を見て、どうして打って出ないことがありましょう。その勢三千余騎は、木津川の辺に下り合い、高橋(高橋又四郎)の勢を取り籠めて、一人も余さじと攻め戦いました。高橋ははじめの勢いとはうって変わって、敵の大勢を見て、一返しも返すことなく捨て鞭を打って引いたので、木津川の逆巻く波に追い落とされました、わずかに命ばかりを助かる者も、馬物の具([武具])を捨てて赤裸([丸腰])になり、白昼に京都へ逃げ上りました。何とも見苦しい有様でした。これを情けないと思う者がしたのか。平等院の橋詰に、一首の歌を書いて札を立てました。

木津川の瀬々の岩浪がそれほどに早いというのか。駆けて間もなく落ちる高橋の何とも情けないことよ。


続く


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by santalab | 2016-01-16 08:49 | 太平記 | Comments(0)

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