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「太平記」笠置軍事付陶山小見山夜討事(その7)

やや暫くありて、木戸の上なる櫓より、矢間さまの板をおしひらいて名乗りけるは、「三河国みかはくに住人ぢゆうにん足助あすけの次郎重範しげのり、忝くも一天の君に頼まれまゐらせて、この城の一の木戸を堅めたり。前陣ぜんぢんに進んだる旗は、美濃・尾張をはりの人々の旗と見るは僻目ひがめか。十善じふぜんの君のおはします城なれば、六波羅殿や御迎ひあらんずらんと心得て、御まうけの為に、大和鍛冶やまとかぢきたうて打ちたるやじり少々せうせう用意仕りて候ふ。一筋ひとすぢ受けて御覧じ候へ」と云ふままに、三人張りの弓に十三束三伏じふさんぞくみつぶせ篦被のかづきの上まで引き懸け、暫く堅めてちやうと放つ。その矢遥かなる谷をへだてて、二町にちやう余りが外に控へたる荒尾九郎がよろひ千檀せんだんの板を、右の小脇まで篦深のぶかにぐさと射込む。一箭ひとやなりといへども究竟くつきやうの矢坪なれば、荒尾馬よりさかさまに落ちて起きもなほらで死しけり。




ややしばらくあって、木戸の上の櫓より、矢間([矢狭間やざま]=[城の塀や櫓・軍船の胴壁などに設けた、中から矢を射るための穴])の板を押し開いて名乗るには、「三河国の住人足助次郎重範(足助重範)はが、忝くも一天の君(第九十六代後醍醐天皇)に頼まれ参らせて、この城の一の木戸を固めておる前陣に進んだ旗は、美濃・尾張の人々の旗と見るが見間違いか。十善の君がおられる城なれば、六波羅殿がお迎えになるであろうと、準備して、大和鍛冶が鍛えて打った鏃を少々用意しておるぞ。一筋受けて見られよ」と言うままに、三人張りの弓に十三束三伏の矢を篦被([矢の鏃と篦との接する部分])の上まで引き、しばらく堪えて矢を射ました。矢は遥か先の谷を越えて、二町余り外に控えていた荒尾九郎の鎧の栴檀の板([大鎧の付属具。右の肩から胸にかけてつけ、胸板の右の隅のすきまをおおうさね仕立ての板])右の小脇まで篦深にぐさりと刺さりました。一矢といえども急所でしたので、荒尾(九郎)は馬からさかさまに落ちて起き上ることもできずに死にました。


続く


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by santalab | 2016-01-17 09:05 | 太平記 | Comments(0)

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